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熱海について2時間、僕と遊は見事に
迷っていた
「暑い…無理……死ぬ……………」
「零うるさい余計暑くなる」
気温は35度を超えていて、とてもじゃないけどひきこもりには辛い。
「無理…………熱海なんて来るんじゃなかった………
こんな暑いなら室内で原稿地獄ほうがましだ…………」
「言質とったよ…帰ったら130ページ覚悟してよね……」
灼熱地獄のあとに待ち構える原稿地獄。
なんてこったい。
何故かタクシーの来ない道路の横をひたすら歩いても人がいない。
「ぁ…あれ、文具屋…遊、人いるか見てきて」
「はァ?仕方ないな〜……」
田んぼしかないような場所にぽつんと一つだけあったのは文具屋。
寂れた文具屋に入ると、マニアックな物が多かった。
「これ…ジェットブルーインキ。
よくこんなの残ってるな……」
「うわ、ジェットブルーインキどころかリアルブラックインキもあるよ。
なにこれタイムスリップしたみたい…。」
「いらっしゃい…お2人さん、若いのによく知ってるねェ…。」
珍しいインクに興奮していたとき、奥から出てきたのは少し腰の曲がったおばあさんだった。
珍しそうに僕らを見つめているおばあさんは嬉しそうに笑いかけてくれた。
「これ、なんでこんなに古いのがまだ現存してるんですか?」
「あァそれはねぇ…いつだったか…多分20年以上前になるか…夫に貰ったんだよ。
だからそれは売り物じゃァないよ。」
「旦那さんと一緒にこのお店を?」
「いや…夫はもう亡くなったよ……
戦争に行ってそのまま帰ってこんかった。」
聞いちゃいけないことを聞いてしまって少し後悔した。
戦前の人に聞いても大抵の人の旦那さんは亡くなってる。
僕は次何を言ったらいいのかわからなくて、黙ってしまう。
「その…すみません。」
「何さ大丈夫よォ!
夫は本当に国のためだと思ってたのよ…。
聞いたことはあるだろう?神風特攻隊、と言ってな。
敵陣に飛行機さ乗って突っ込むんだよ。
夫は神風特攻隊だった。
戦争中、2回敵陣さ突っ込んだんだ。
1回生きて帰ってきたんだよ…それも逃げたとかじゃなく、突っ込んで、でも死ねなかった…。
どれだけ怖かったかね…2度も死の恐怖を味わって、それでもお国の為だって。
死にたかっただろうにねェ…まァもう随分昔のことさ。」
死にたくても、死ねない。
その苦痛を僕も知っている気がする。
でもきっと僕とは比べ物にならないくらいの恐怖と苦痛を強いられたんだと思う。
「でもきっと、旦那さんはおばあちゃんのこと愛してます。いまでもきっと。根拠はないけど…。」
「あらあら!こんな若い子に励まされちゃうなんてねェ。
ところでアンタ達なんでこんなところに来たのよ。」
なんて言ったらいいのかわからなくて、困っていたけどおばあさんが沈黙を破ってくれた。
正直忘れてた。
「それがその…迷ってしまって。」
「あらら迷ってこんな所まで来ちまったのかい…。
駅ならそこの道をずーっと行ったらつくさ。
ざっと1時間くらいかねェ……」
「1時間……零………これは………」
いや、無理…………
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