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美術館
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待ち合わせは家の前で朝9時。あれよあれよともう日曜日。と言っても一番長く感じた…。最近学校では入学したばっかだし特に行事もなくて勉強ばっかだしつまらないから。
朝の5時、なぜか目がさめる。
朝の6時、身支度を終える。
朝の8時、暇を潰して家を出る。
待ち合わせの1時間前なんですけど…、自分に苦笑する。こんなに楽しみなの、小学生の遠足以来かも。でも暇だな…やっぱ家に帰ろうかな。なんて思っていた8時半。米崎さんが出てきた。
「え、…えと早いね、おはよ、」
「あ、お、おはようございます」
思わず2人ともしどろもどろ。2人とも待ち時間より前に出る派なんだとなんだか嬉しくなった。それにしても、…なんかドキドキする。心不全……?と疑いつつもいや、ないな、と否定する。
「桐谷くんは、美術館とか、好きなの?」
「え、あ、はい、好きですよ」
………しまった、ここなら普通なんか話を加えるもんだろ…、少し沈黙が流れる。今までどうやって話してたかな、とか今までの行動を考える。それにしても、今日の、米崎さんはなんか、なんか、紳士的…?いや、なんか、デートっぽい服装…。いつもてきとうなのに(ひどい)。似合うなぁなんて思った。
「えと、桐谷くん、ジロジロ見られると…なんか変な感じなんだけど」
「え、あ、すみません、そんな見てるつもりじゃ」
いや、がっつり見てました、すみません。自分でも心当たりあります。…そう思って視線を下にやったらなんか横からやけに何かを感じる。…視線…。
「よ、米崎さんだって見てるじゃないですか」
「仕返し」
ふふ、と笑うその姿は新鮮で。いつもの、あの悲しそうな微笑みではなかった。それが、なんだか嬉しいし、こそばゆい。そんな感じで電車に乗ること約10分。つ、着きました…!たまに来るけど、やっぱり大きい美術館。はぐれそう、人多いし。しかも美術館って1人でじーって鑑賞するものだからついてくもんでもないしな…。
なんて1人でううん、と唸っていると
「桐谷くん、これ俺のLIMEだから。」
と目の前に携帯登場。早速登録して、ではまた会いましょうって感じで、中に入った。結構色々な画家さんの絵があって、思ったよりも夢中になってしまった。ピカソとか、モネとかマネとか、ドガとか。ふと、目の端に米崎さんが映る。イケメン顔のせいだろうけど、…やけに似合う。美術館と美青年。立ち姿とかもう…、ってここは米崎さん鑑賞会じゃないんだから俺も俺で楽しもう…。
…っと、
美術館を出た頃にはもう夜になっていた。む、夢中になってた……!
「結構良かったね。今回の作品たち」
「え、米崎さんもよく来るんですか?」
「まぁ、ちょいちょい、かな」
なんて話をしていながら俺が少し前に出て横断歩道を渡っていた………ら、
やけに速い車が信号無視してこっちに突っ込もうとしていて。俺は固まって瞬きすらできなかった。
「危ない…っ」
やけに切羽詰まった米崎さんの声が後ろからして、さっきまでの距離とは違って、歩道まで力強く引き寄せられてスルッと米崎さんに抱きしめられた。また再び歩道、にいるわけですが。
「……えと、米崎さん…あ、ありがとうございます…。俺、大丈夫ですから…」
と言っても米崎さんは離してはくれない。ただ黙って、俺を彼の腕の中に閉じ込められてる。なんか色々なことが一気に起こったから頭が混乱してる。米崎さんが助けてくれなかったら、俺はどうなっていたんだろう………と冷静に考える。まあ…死んでたんだろうなぁ、と。
「……ごめん……りお…」
ポツリと、そんな今まで聞いたことのないような、切なくて、泣きそうな声が米崎さんから発せられた。…りお。……誰なんだろう…。
でも、聞いても、教えてもらえないんだろうな…。なんて考えながら、俺はしばらく米崎さんの腕の中にいた。
胸は、少し痛んだ。
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