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君は泣いて強くなる
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昨日何してた?って洸介からの質問にすぐに答えられなかった。
昨夜はドラマで共演した女優と食事をしてたから。
別に疚しいことは一切無いが、女性と一緒に居たと答えればこの可愛い恋人は、きっと有りもしない出来事を想像して嫉妬するだろう。
「家に、居たよ」
でも、表情を見とけばよかったと後悔するのはもう少し後で...。
「そう...」
「洸ちゃんは何してた?」
陰った表情に気付かずに質問する。
「俺は...MSと食事。Lapinで」
珍しく外食したようだ。
仲良しな後輩グループに誘われたんだろう。
そんな事よりも店名を聞いて固まってしまった。
そこは昨日俺も食事してた店だ。
そして気付く、洸介が今にも泣きだしそうな顔をしている事に。
「ごめん、違うんだ!」
慌てて身体を引き寄せ謝るが、手を振り払われる。
失敗した。
頭の中で言い訳を考えるが、焦って何も思い浮かばない。
「今日は、帰るよ」
「待って!ごめん、嘘ついたのは悪かった」
「触んなっ!!」
腕を掴んだ瞬間、ハッキリとした拒絶。
赤信号。
かなりヤバい。
今離したら、きっと家に帰って一人で泣くのだろう。
そして、勘違いしたまま別れを告げられる。
振られるくらいなら、自分から身を引くのが洸介だ。
「離せや!」
「離さないよ。なぁ、分かってるだろ?俺がどれだけ洸ちゃんの事好きかって」
無理やり口付けする。
一瞬驚いた顔して、その後はじたばたと暴れた。
それでも強引に深いキスをする。
「や...ぁ!んんっ」
「好きだよ。他の誰もいらない。洸ちゃんだけなんだ」
「知ら、ないっ...イヤや!」
離れようと思いっきり暴れて、不意に俺の顔に傷が付く。
爪で引っ掻かれて薄く血が滲んだ。
「...っっ!」
「あ...」
意図せず傷付けた事に申し訳ないって表情を見せるが、すぐにハッとして俺から離れた。
「帰る!!」
「ちょっ...待って!洸ちゃん!!」
引き止めるが、今度こそ間に合わない。
伸ばした手が宙を掴み、走って出ていったドアがバタンと音を立てて閉まった。
「くそっ」
壁に寄りかかって、思いっきり拳で殴りつける。
ドンッという大きな音と共に、手に痛みが走った。
でも、洸介はこんな痛みなんかよりも、もっと傷付いてる。
全身で悲鳴をあげてた。
何で気付かなかったんだろ...昨日何してたなんて、普段洸介は聞かない。
昨日からずっと泣きたくて我慢してたはず。
なのに...俺は嘘ついて裏切った。
「ごめん...ごめんね、洸ちゃん」
謝罪の声は本人には届かない。
追い掛けたかったが、今行っても拒絶されるだけだと思い行けなかった。
何度も拒否されるのは、辛い...。
レギュラー番組の収録のためテレビ局の楽屋へ行く。
挨拶をして中に入ると、既にメンバーが揃っていた。
「はよ...って、名瀬、その傷なに?」
「あ~...ちょっと...猫に引っ掻かれて」
「猫...ねぇ。みぃちゃんだっけ?」
「そう。怒らせちゃった」
愛猫のせいにして、松尾くんの質問から逃げた。
洸介にされたなんて、口が裂けても言えない。
「ま、いいけどさ。ファンデ塗って隠しとけよ」
「はい」
はぁ...と小さく溜息をつく。
「幸せが逃げるで?」
リーダーに聞かれてたみたい。
幸せ...とっくに逃げてるけどな。
本気でどうしたらいいのか分からない。
俺が悪いのは明らかだから、謝ればいいんだろうけど...あそこまで拒絶されると次の一手をどうするべきか悩む。
「名瀬、大丈夫?お前が静かだと気持ち悪いよ」
笑いながら太久麻くんからポンッと頭を撫でられる。
見あげれば、そこには訳知り顔のメンバーが居た。
「...洸ちゃん、怒らせちゃいました」
「だろうな。その傷も、洸介だろ」
隠しても無駄だと思い話すと、松尾くんが言い当てる。
...ホント、適わない。
俺の事なんてお見通しってわけだ。
「俺が...嘘ついて、洸ちゃん傷付けたから」
「なんや、原因分かっとるなら簡単やないの?」
「だな。とにかく謝るのみ!」
リーダーと松尾くんからのアドバイス。
「でも...会ってもらえないかもしれない」
弱気な俺に発破をかけるのは太久麻くん。
「ばっかだなぁ。そんなの本気じゃないじゃん。無理やりにでも会うしかないだろ」
「そうだよ。遅くなればなるほど頑なになるし」
山中くんは実体験って感じ。
確かに洸介は意地張って引けなくなる事がある。
素直じゃない洸介も可愛いけど...今回に限っては困る。
とにかく会いに行こうと決意して、仕事を終わらせた。
深夜三時。
普通の人なら寝てる時間だけど、夜型の洸介は活動してる時間だ。
メールも電話も無視されてる状態だったけど、マンションまで勝手に来た。
合鍵も持ってるから、部屋までも入れる...が、どうしようか悩む。
とりあえず部屋の前まで来て、暫くそこで考えてた。
マンションの廊下は少し肌寒い。
はぁ...と手に息を吹きかけると、白い息が出た。
いつの間にか季節は冬になっている。
仕事柄季節を先取りしていくから、実際の季節と感覚がズレる事もある。
もう、こんなに寒くなってたんだ...って実感。
マンションから見えるキラキラした夜景。
二人で見れば綺麗だと思うのに、今はただ淋しい気持ちでいっぱいだ。
「...っし、やるっきゃないよな!」
拒絶されて傷付いてる場合じゃない。
本当に傷付いてるのは洸介なんだから。
気合いを入れて鍵穴にキーを差し込むと、開けてもいないのにノブが回された。
そして扉が開かれる。
「いっ...たぁ!!」
予想外な展開にドアを避けきれずぶつかった。
ゴツンという音と共に、その場に蹲る。
「は?...え、あれ、なっちゃん?」
洸介の部屋から出てきたのは、央だった。
ドアと俺とを交互に見てる。
「ごめん、もしかして...ぶつかった?」
「いや、俺も見てなかった」
まさか扉が開くなんて思いもしなかったし...。
でも、なんで央が居るんだろ。
額を押さえながら央を見ると、苦笑いしてる。
「...言っとくけど、浮気やあらへんよ」
「ばっ!そんなの疑ってない!!」
「ならいいけど。って...外、寒っ。中入らへん?」
央の提案に頷くしかない。
思いがけない第三者の登場に、正直少しホッとしてる。
央の後に続いてリビングへと入った。
「央?忘れ物でも...っな、せ」
リビングで寛いでいたであろう洸介は、帰ったはずの央が戻って来たことに不思議そうな顔して、その後俺を見つけて固まった。
「ドア開けたらソコにおった。ずっと外におったみたいやで?」
「そう...なんや...」
俺を見る瞳が揺れて、すぐに視線がはずされる。
「央...ここ、おって?」
自分の側に居て欲しいと懇願する。
一瞬嫉妬でどうにかなりそうだったけど、深呼吸して気持ちを落ち着かせた。
嫌そうな顔しながらも洸介の側に行く央。
「...別れ話?...やったら、聞きたくないねんけど」
「は?...なんで、そんな事になってんだよ」
央に隠れるようにしながら話してる。
きっと涙目になってるだろう。
「やって...名瀬は女の子の方がええんやろ?だから、俺に内緒で女の子と会ってた」
「違う!...いや、会ってたのは事実だけど。急に食事に誘われただけで、付き合うとかそんなんじゃない」
相手からアプローチはあったけど、もちろん速攻断ってる。
「洸ちゃん嫌がるかと思って言わなかっただけで...疚しいことは一切無い」
「そんなの、信じられへんやろ...」
「昨日も言ったけど、俺は洸ちゃんしか見えてないから!洸ちゃんが好きなんだ」
「...でも」
言い淀む洸介に、静観してた央が溜息をついて振り向いた。
「...お前、これ以上どうしたいんや。確かになっちゃんの行動は軽率やったし、その後嘘ついたのもあかん。でもな、なっちゃんがお前の事好きなのは一目瞭然で、その気持ちまで疑うのは違うんちゃうの」
「......」
「疑ってばかりやと、なっちゃんも嫌になって離れてくで?」
そんな事絶対無いけど...。
でも央の一言に、やっぱり涙目になってた洸介が慌てて顔を上げた。
「そんなん、イヤや」
「洸ちゃん...」
「俺っ名瀬に嫌われたら生きてけへんよ...」
「なら...どないすればええか、分かっとるやろ」
コクンと頷く。
央はその姿を見て、呆れたように息を吐いてから立ち上がった。
「...ほんなら、俺帰るわ。仲良うしぃや」
「おうちゃん...迷惑かけてごめんな。ありがとう」
後ろ手に手を振って部屋から出ていった。
残されたのは涙でぐちゃぐちゃの洸介と俺。
ソファーに行き洸介に手を伸ばすと、ビクッと震えた。
「洸ちゃん...本当にごめん。今度から絶対嘘はつかない。誰かと会う時も必ず連絡する」
涙を指で拭って、抱き締める。
震える肩が切なく感じて...腕に力が入った。
「そこまで...縛り付けたくない。ただ、嘘だけはつかないで。何を信じてええのか、分からなくなるから」
見つめる瞳の中にしっかりと俺が映ってる。
やっと、いつもの洸介に戻った。
「約束する。絶対に嘘はつかない」
「俺も...名瀬の気持ち疑ってごめん」
軽く口付けると、足らないって言ってるように引き寄せられた。
もう一度口付けする。
今度は舌を絡めるような深いやつ。
「ぁ...んっ...んん!」
「まだ、足りない?」
濡れた瞳が艶かしい。
かぁっと紅く染まる頬を両手で包む。
「俺は、足らないけどね」
いい?って聞くと、何が...か分かったのか、恥ずかしそうに頷いた。
こんなにも可愛い恋人を、自分から手放すなんて有り得ない。
なのに、いつまで経っても洸介は俺の気持ちを軽くみてるんだ。
いつか捨てられるんじゃ無いかって、怖がってる。
「好きだよ...大好き。洸ちゃんが居ない世界なんて考えられない」
だから、沢山愛を囁く。
その度に嬉しそうな顔をする洸介が、本当に愛おしい。
もう二度と、こんなくだらない事で泣かせたりはしないと、強く心の中で誓った。
そのままソファーで身体を重ねて、今度は別の意味で泣かせてしまったけど...。
君は泣いて強くなる...?
*****
またまた某アイドルの歌から考えついたものです。
歌の中では浮気してますけど、勿論名瀬は浮気なんてするつもりは一切ありません。
そうは言っても、やっぱりそんな場面に遭遇したら、洸介みたいに疑っちゃいますよね。
その後として、洸介目線でエッチシーン書いてますが...発表できるのはいつになるやら(>_<;)
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