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一
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特に何も無かったんだ。
僕の人生における、言わいる「生きる理由」って奴は。慣れてるとはいえ空振りだらけの日常も続けば案外辛いものでさ、だからその日、僕は自殺を図ろうとしたんだ。
でかいビルの屋上、フェンスはあるものの簡単に乗り越えられる安っぽい奴。時間帯も人がいない夜間に選んで邪魔者なんて一人もいない、まさに静寂の世界で。
風邪が心地いい、自殺にはもってこいだ。
さらばこの世、来世はせいぜいいい人生にさせてくれ。と屋上からいっぽ踏み出そうとした瞬間だった。
「待て!」
「うわっ!」
フェンスの大きな隙間から伸びる手、それにガシッと掴まれて自殺は虚しくも失敗に終わった。こんな深夜に邪魔者がいるなんて予想外だ、ちくしょう。
僕の自殺を見事に阻止した人間(暗くて顔が良く見えないが恐らく男性)はフェンスの内側に戻れと命令してきた。
その男に従うのも癪だったけど、人の目の前でビルの屋上から飛び降りるのも気分的に嫌だったので大人しくフェンスの内側に戻った。
フェンスの内側に戻って、そのまま帰ろうとすると
「待て!」
と再び男は叫んだ。僕は一瞬カチンと頭に熱が登るのを頑張って抑えてると男は再び口を開いた。
「自殺したいと思い、実行するほど生きる理由を見失ったキミに頼み事があるんだ」
自殺志願者に頼み事なんてロクじゃないな、と聞いて5秒で確信した。麻薬か?それとも死体の隠蔽?はたまた殺人?
まぁどれでもいい。引き受ける気は無いが頼み事は聞いてやろう。そして気に食わなかったら一発この男を殴って逃げよう。
「…………なんだ」
「その前にキミ、奥さんは? その指輪は結婚指は? それとも自殺のお供?」
「妻には逃げられた。指は冥土の土産、これで三途の川を渡るんだ」
「じゃ好きな人は?」
「いると思うか?」
「……んーおけ、ならいいか」
男はそう言ってニッと笑った。正直、その笑顔はさっきまで死のうとした人間を目の前にした笑顔だと思えなくて心底ゾッとした。
「で、結局頼み事はなんだ?」
「ぼくを『抱いて欲しい』」
「は?」
「聞こえなかったか?ぼくを抱けって言ったんだ。いいだろそれぐらい」
「僕はヘテロだ」
「そんなの知らない」
……なんと、とんでもないゲイに絡まれた。勘弁してくれ。俺は自殺をしに来ただけなのに。
気に食わない頼み事だったから予定通りに一発この男殴ってこの場を立ち去ってやる。と拳を振り上げれば、男は顔をしがめて「暴力的な人だ」と静かに文句を零した。
――――深夜のビルの屋上で拳の重い一撃の音が響いた。
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