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入院は点滴から食事療法へと移り順調に回復していった。
俺が入院した所で見舞いになど誰も来ないと思っていたのに、予想外に来客は多く七海や神谷、結城と教頭の他にも同僚や校長などの学校関係者から数学関係者まで訪ねてきて、自分でも思った以上に人との繋がりがあった事に驚いた。
「そうですねー。大分良くなりましたが、あと一週間は様子をみましょうか」
医者の言葉に青褪める。
あと一週間もだと。
思わずグイと胸ぐらを掴む。
「おい、貴様いい加減に退院させろ。俺をいつまでここに収容しておく気だ」
「――ちょっ、先生落ち着いて下さい。こちらも本来一ヶ月のところを二週間にしましょうって提案しているんですよ。せ、生徒さんもなんとか言って下さいっ」
「あー、はいはい。みーちゃんあと一週間は大人しくしてましょーね」
「……仕方ない」
七海の言葉に渋々医者から手を離すと、慌てたように医者は病室から出ていった。
たまたま医者の回診に居合わせていた七海が、すっかりいつも通りの笑顔で俺に笑いかける。
「みーちゃん、お医者さんに威嚇しちゃダメですよ」
「そ、そういうつもりでは…」
「でも大分良くなってよかったです。ご飯ももうちゃんと食べられますもんね」
「ああ。すっかり身体は元気なんだがな…」
そう言ってため息を吐き出す。
何を言おうと医者の退院許可が下りなければここから出ることは出来ない。
「あ、そうそう。中間テストかなりいい感じです。みーちゃんにいい結果見せられそうなんで期待して待ってて下さいね」
「そうか。それは楽しみだ」
「じゃあそろそろ帰ります」
そう言って七海は立ち上がる。
毎日お見舞いに来てくれているから勉強のことを心配してしまうが、それを考えてか七海は俺の顔を見る程度に留めていつも帰っていく。
ただ毎日必ず帰りがけに、ほんの少し触れてくる。
今日も俺に触れるんだろうか。
ドキドキとその手を待ってしまう。
七海と視線が合って、思わず逸らすとクスリと笑ったのが分かった。
「ゆっくり休んでくださいね。おやすみなさい」
そう言って七海は俺の髪の毛に手を差し込むと、そっと引き寄せてこめかみにキスを落とした。
全身の血が沸騰するような感覚を覚える。
別れの言葉も言えないまま、呆然と七海を見送ってしまう。
七海は相変わらず毎日来ては、ほんの少しだけ俺に触れてから帰っていく。
元気になってからの一週間はそれはそれは退屈で、毎日来る教頭の長話に耳を傾け始めるくらいには暇だ。
七海が借りてきてくれた小説を全て読み終えて、ふと漫画の方に気付いた。
アイツがおすすめと言って持ってきてくれていたが、やはり漫画は読み慣れていないだけに手が伸ばしづらく後回しにしていた。
だがここまで来たらせっかくだし読んでみようと手を伸ばす。
漫画など児童文学のようなものでツッコミどころの多いご都合展開かと思えば、思いの外しっかりと細かい設定があり、それを絵を交えて説明しているため読みやすい。
予想外に先が気になる話の展開に手に汗を握っていたら、七海が来た。
今日は中間テストの結果を持ってきてくれて、しっかりと成績の上がっているそれを見せられる。
努力の結果が見られるというのは、最高のプレゼントだ。
七海をたくさん褒めてやって、嬉しそうにしているアイツの笑顔に心が絆される。
「じゃあそろそろ帰りますね」
中間テストも終わったし今日は少しくらいゆっくりしていくかと思ったが、やはりいつもと変わらず七海は少し話した程度で立ち上がった。
思わずその姿を目で追ってしまう。
もう少し一緒にいたい。
まだその姿を見ていたい。
だがテストが終わったとはいえ受験シーズンであることには変わりなく、安易に引き止めることは出来ない。
「また明日来ますね。おやすみなさい」
そう言って今日は俺の首筋にキスを落とした。
すぐに引いていく熱に、無意識に七海に手を伸ばしてしまう。
「ん、どうしました?」
「…い、いや…なんでもない。すまなかった」
引き止めてはいけない。
勉強の邪魔にはなりたくない。
衝動的にしてしまった自分の行動に慌てて布団を引くと「寝る」と言って顔を隠した。
少ししてから、七海の手が優しく俺の髪を撫でる。
それから病室を出ていく音がした。
どこか胸が落ち着かないような、ポカリと穴が開いてしまったような気持ちになる。
俺はもしかして寂しいんだろうか。
寝ようと思ったが寝れず、そっとベッドから身体を起こす。
何か心を紛らわせるものが欲しくて、七海が持ってきてくれた漫画に目を留める。
再び続きを読んでいたら、面会終了時間を知らせる放送が入った。
漫画から少し顔を上げて、ふと気づく。
椅子に七海が羽織っていた学校指定のジャージが掛けてあった。
アイツ忘れていったのか。
面会時間も終わってしまったし、また明日来るだろうと考えて畳んでおくために手を伸ばす。
広げたら予想外に大きいサイズのそれから、ふわりと七海の香りがした。
よく覚えのあるそれにドキリと大きく心臓が跳ねる。
無意識だった。
トクトクと早鐘を打つ心臓のまま、それを鼻に押し付ける。
七海に抱きしめられた時のように頭の芯がくらりとして、思わずぎゅっとそれを抱きしめてしまう。
匂いが記憶を呼び起こすように脳が痺れて、甘い疼きが身体に沸き上がってくる。
「……っ」
俺の身体は本当にどうしてしまったんだろう。
下半身に熱が溜まっていく感覚。
七海のジャージに鼻を押し付ける度に、全身が覚えのある疼きを求めて反応している。
いけないと思っているのに離せないそれを抱きしめながら、どんどん身体が昂ぶっていく。
徐々に理性が麻痺していくのを感じながら、そっと自分の身体に手を伸ばした。
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