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バイト先の飲み会に行った恋人が、酔っぱらって電話をかけて来たのは、6月のある週末のことだった。
『バイト仲間の子、泊めっから』
イマイチ呂律の回ってなさそうな声で言われて、「うわ」って焦る。
彼、純一君と大学入学を機に同棲を始めて、2年ちょっと。オレたちの住む2LDKのマンションに、彼が誰かを連れて来るのは、すごく久し振りのことだった。
実際には同棲なんだけど、表向きはルームシェアってことになってるから、周りのみんなも割と遠慮なくうちに来る。
高校時代の共通の友達もよく来るし、純一君の弟とか、オレの従兄弟とかも来る。大学の友達も、この2年の間に何度か来た。
だから別に、来客に戸惑う訳じゃないんだけど、さすがにこんないきなりだと、片付けできてなくて焦る。
『掃除しとけよー』
酔っぱらった声でそう言う純一君も、きっと部屋の様子が分かってるんだろう。
電話が切れた後、さっそくあわあわと立ち上がり、散らばってる雑誌や服をまとめてオレの部屋に放り込む。
純一君のも混じってるけど、仕分けは後だ。
お菓子の小袋をゴミ箱に放り、飲んでたジュースの缶をしまって、それから急いで掃除機をかけた。
もう夜中なのに掃除機、迷惑かなと思ったけど、今夜ばかりは仕方ない。
できるだけ手早く急いで掃除機をかけ、流し台に溜まってた洗い物を始めると――間もなくピンポーンとインターホンが鳴って、ドアがドンドンと叩かれた。
「はーい」
濡れた手を拭きつつ応答すると、『開けてくれー』って純一君の声がする。
鍵、忘れたのかな? それとも鍵が取り出せないくらい、荷物多い?
不思議に思いつつ玄関に向かい、鍵を開けてアイボリー色の鉄扉をぐっと押し開く。そしたら純一君は、長い金髪の誰かを肩で支えてて。
それが女の子だったから、ビックリした。
「着いたぞー、ガイヤー」
純一君に名前を呼ばれ、彼の肩にへばりついてる女の子が、「ふぁーっ?」って間延びした声を上げた。
べろべろに酔っぱらってるって、一目で分かる。
ちらっと顔を上げたけど、目がちっとも開いてなくて、何も見えてなさそう。ただ、白人の女の子だなって、それだけは分かった。
「夏樹、ワリー、荷物」
オレに荷物を差し出しつつ、ふらっとよろめく純一君にギョッとする。
2人分のカバンを受け取ったオレの前で、酔っ払い2人は靴を脱ぐのにも大変そうだ。
「おら、クツ脱げー」
「クツ。I cannot」
「Cannotじゃねーよ、脱げ」
「Noooo」
べろべろに酔っぱらってるんだから仕方ないんだけど、何となく仲良さそうな雰囲気に、モヤッとする。
「なつきー、脱がしてやってー」
最終的には純一君に頼まれて、オレが彼女の靴をおっかなびっくり脱がせてあげたけど、その間も2人は目の前で肩を組んでもたれあってて、まるでイチャイチャしてるみたいだった。
脱ぎ散らかされた靴を揃え、2人を追ってリビングに戻ると、純一君がソファに座ってる。
女の子は、ってよく見ると、彼のヒザを枕にして、ソファにごろんと寝転がってた。
「悪ぃー、水ー」
ショックを受ける間もなく、純一君に頼まれて冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
コップについで手渡すと、彼はぐっと一気に半分飲んで、残りの半分を女の子の口元に持ってった。
「水、飲めー」
純一君が間延びした声で言いながら、女の子の頬に水の入ったグラスを寄せる。女の子は「Oh……」って言いながら、笑みを浮かべて起き上がった。
目が開いてなくて、眉間にしわがよってて、残念な感じになってるけど、それでも十分美人さんだって分かる。
彼女は手さぐりでグラスの水を飲み干して、目を開けないままグラスを突き出し、「モーイッパーイ」ってビミョーなアクセントで言った。
求められるまま水を注ぐと、すかさず純一君が「こぼすなよ」ってフォローする。
幸い、口元を多少濡らしただけで飲み切ったけど、彼女はグラスを純一君に返すなり、英語で何やら呟きながら、再び彼のヒザの上に寝転がった。
ぼうっと見てると、「なぁつきー」って間延びした声で恋人に呼ばれる。
何かと思ったら、グラスをぐいっと突き出され、「オレにもー」って言われて、モヤモヤが募った。
「終電、なくなったらしくてさー」
純一君が、呂律の回らない口で説明してくれたけど、正直、しっかり頭には入んなかった。
ガイヤさんっていう名前で、アメリカ人で、こっちには留学で来てるんだって。
それはいいけど、普通こういう時って、女の子は女の子の家に泊まったりするんじゃない、の、かな?
「……なんでうちに……?」
ミネラルウォーターの2リットルボトルを抱えたまま、ぼそりと訊く。
「あー? んー、よく分かんねーけど、オレんちがいいっつーからさー。ほっとけねーだろ?」
そう応える純一君は、ちっとも悪びれてなさそうだ。
ぽん、と彼女の頭を無造作に撫でる手に、じりっと胸が焦げる。直視したくないのに、目が離せなくて、どうすればいいか分かんない。
純一君ちがいい、って。それ、キミが好きだから、そう言ったんじゃないの?
けど、そんな疑問を口に出す勇気もなくて、そのままペタンと床に座る。
抱えたままの水のボトルが、汗をかいててヒンヤリ冷たい。冷蔵庫に戻さなきゃって思うけど、なんか、立ち上がる元気が出なかった。
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