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第4章
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七瀬の顔が急に強張る。
御船は表情も姿勢も変えぬまま、ジッと七瀬を見ている。
もう笑ってはいなかった。
「…七瀬。
言いたくなきゃ言わなくて良い…、
じゃあ済まねえんだよ。
分かるだろ?
…あの時のお前は異常だった。
あの時たまたま俺が電話を掛けてなかったら、
今頃どうなってた?そのままぶっ倒れて
明日は学校でなく、病院行きだったんじゃないか?
それも誰かが運良く見つけてくれればの話だが。」
「……。」
「それとも、…なあ、七瀬。
お前あんな青い顔のあんな精神状態のままでも学校に来る気だったのか?」
七瀬は唇を噛んだ。
「……やめろ。」
「何食わぬ顔をして、教科書を読み、
只倉と笑い話でもして、
発作や嘔吐の記憶をもみ消して
今まで通り、ヘラりと授業を受けるつもりだったのか?涼しげな顔で、いつも通りの…
秘密主義の、見栄っ張りの優等生委員長さまとして。」
「やめろって言ってるんだ!!」
たまらず七瀬は怒鳴り声を上げる。
荒い息をついて、布団に顔を埋める。
震える手で髪を掴み、同時に耳を塞いだ。
「……。」
ーーーやめろ、やめてくれ。
これ以上、踏み込むな!!
踏み込まないでくれ……。
秘密主義で何が悪い。
おれの内部を、そう簡単に晒してたまるか。
お前なんかに…。
「…七瀬。」
御船の手が、七瀬の髪に触れる。
「誓って言う。
この事でお前を追い込んだり、
ネタにするような真似はしねえ。
…ただ、何があってああなったか
聞くだけだ。」
「……。」
七瀬、と御船の指がさらりと七瀬の髪を梳く。
胸がどうしようもなく高鳴る。
耳が熱くなって来た。
どうしてこの男の声からは
意地を屈服させられてしまうような、
艶な力を感じるのだらう…。
どうして、低く、この男に名前を呼ばれると…
身体も心も逆らえなくなってしまうのだろう。
「……。」
七瀬は髪から手を解いて、ゆっくり顔を上げた。
御船の顔を見る。
御船もまた、真面目な表情で、
切れ目の黒い瞳で、七瀬に視線を返す。
目頭まで熱くなって来た。
「………家の、
人間が来てたんだ…。」
ポツリと呟くように七瀬がもらす。
「家の?」
御船が片眉をクイっと上げた。
「家族ってことか?」
「…いや、おれの実家で、長年仕えてる…専属の執事だ。業田さんっていう人。」
「執事…。」
執事ねぇ、と御船は聞きなれぬ様子で
一瞬天井を見上げ、
また視線を七瀬に戻した。
「…それで?」
「おれは…、その人が…、
いや、その、業田さんに限らず、七瀬の本家の人間が…、
どうも、苦手で……。」
七瀬は布団に目を落とし、たどたどしく続ける。
「…と、いうより、
…あっちの方も、おれを嫌ってる。
おれが、あの家を…、ーーー壊したから…。」
七瀬の消え入りそうな声も御船は敏感にキャッチ出来た。
「壊した?」
「おれは…、本当は、あの家の子じゃ無い…。」
「……。」
「血が、繋がってないんだ。
それでも、あの家の当主…、
父さんは…、
血の繋がりもないおれでも、何不自由なく、養ってくれた…。
外にもよく連れて行ってくれたし。
勉強も、見てくれた。
きっと、本当の父親以上に、おれに、愛情を注いでくれていたんだと思う。
時に…、
度が、過ぎるくらいに。…本当の息子さん達さえ置き去りにして…。
ーーー歪なくらい、深く………。」
更にか細くなった七瀬の声に、
御船の目が鋭くなる。
その目は、
もしやという…疑念の色から、
何かを確信した憎悪の色の目にに変わり、
殺気まで含まれた瞳で、七瀬の目線の先にある、
とうさんという誰かのーーー、
男の残像を睨んだ。
殺気はたぎるように揺らめいていた。
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