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第6章
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「七瀬。」
甘い声が耳朶にかかる。
七瀬は慌てて上に被さった身体を押しのけようとする。
「七瀬、逃げるな。」
「ぃやだ…っ」
「泣いてるんだろ?」
七瀬の身体がピクリと揺れる。
顔を隠す腕がそっと取られ、覆われていた唇に
再びキスが落ちてくる。
七瀬、と耳にもキスを落とされる。
「嫌だ。」
「泣くなら俺の腕の中で泣け。」
「…っ、いやだ…。」
嗚咽が漏れる。
顔を見るのが怖いから、ギュと目をきつく閉じると、
目元の涙を吸われた。
「…っ、お前なんか…。」
「ん、」
「お前なんか…。」
ーーー嫌いだ。
その一言が、
嗚咽に消されて、出てこない。
惨めに思い、唇を噛んだ。
掴まれた腕が小刻みに震える。
一拍おいて、御船の唇が再び重なった。
「ん…っぅ」
舌を吸い、七瀬の牙を絡め取って、
その行為を止めた。
いつもの、すべてを忘れさせられるような
熱いキスだった。
苦しい想いで、
七瀬は涙目のまま、御船を見上げる。
「み、ふね…、御船。」
声が掠れる。
「……。」
「おれは…、おれはっ…。」
ーーーお前が、好きだよ…。
意地悪く笑うお前も。
獣のように相手を抱くお前も。
相手を狂わせるような甘い声で誘うお前も。
すべてを溶かすような、
やさしい笑みで相手を包み込む、お前も。
例え、それが偽りで、
一時の気まぐれだったとしても、
好きなんだ。
ーーーだから、
もう関わらないでくれ。
このまま、夢は夢のままで、
終わりにしてくれ。
悪夢に変わってしまうのは、
怖すぎる。
「七瀬、今は良い。」
「…え、」
「今は何も言わなくて良い。
お前は何も考えず、
ただ俺を最低だと責めておけば良い。」
御船は笑みを浮かべ、七瀬の涙を指で拭った。
七瀬は呆けた顔で御船を見つめる。
「大丈夫だ。
そのうち、また、
言葉も出なくなるくらい
とろとろに溶かして、気付かせて
言わせてやるから。」
「な…っ!」
涙が引っ込み、顔に熱が集まる。
御船の目は余裕そうな声とは裏腹に、
思いのほか、真剣だった。
「バカか!!お前は!!下らない…っ、勝手な事言うな!!!」
くつくつ笑い声が降りかかる。
七瀬は痛みも忘れて身体を起こし、御船を押しのけた。
けたけた笑う御船を憎らしく睨みながら、
しかし、心の奥で、
七瀬はそんな日が来ることを、
無謀にも強く、祈ってしまった。
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