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第7章 side 御船
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「落ち着けって、トオル。」
長倉は自販機に寄りかかり、猛烈な殺気を放っている御船に声をかけた。
御船は裏庭の壁に坐りこみ、その周りには煙草の吸い殻が無数に散らばって今も一本、その中へ放り捨てられた。
御船が低い声で唸る。
「…この状況で、落ち着ける要素があるなら、
逆に、教えてほしいもんだ。」
長倉は溜息をつき、天を仰いだ。
御船にとって、煙草は禁断症状だ。
放っておくと何をしでかすか、分からない。
下手をすると教師ですら殴りかねない。
それほどに、切羽詰まっていた。
あれから、もう一日。
学校では変わらず生徒達の声が反響している。
変わらずチャイムが鳴り、変わらない時間帯に授業が開かれる。
しかし、そのサイクルの中に依然、七瀬はいない。
御船は煙草を咥え、吐き捨てるように言った。
「…むしろ、落ち着きすぎだろ?
こんなとこで馬鹿みてえに座り込んで、煙草吸ってるしか能がねえなんてよ。自分でも、吐き気がするぜ。」
「…お兄さんからの連絡は?まだ?」
「まだ。…というより、アテがねえ。」
興信所をやっている御船の兄に、七瀬の現在の所在を調べてもらったところ、七瀬の家については何も動きが無かったそうだ。
誘拐の脅迫が来たり、何かしら家族の者達に異常があったり欠けたりということは何も無い。
つまり七瀬の家絡みでは無いという事だ。
こうなってしまうと、正直手のつけようが無かった。
学校周辺の聞き込みでもするしか無いが、
あいにく、朝早くの事だったそうなので、
七瀬を見たという人も、周辺を通りがかったという人も、近隣の人や学生の中には居なかった。
あの日の防犯カメラにも、彼の姿は映っていなかった。
この状況でもし、警察に行ったところで、
相手にはしてくれないだろう。
何せ、七瀬自身が、その日の朝に電話をかけて来ているのだ。
出た教師の話では極めて落ち着いた話し方だったと言う。脅されているような、怯えているような、そんな気配は微塵もなかったと。
御船は前髪をかきあげ、煙草を放った。
ーーーこれが正気でいられるか。
御船は立ち上がり、冷たいスマホを取り出した。
当然の如く、七瀬のラインは既読にならない。
ーーー何処にいる…。何故、何も連絡して来ない。
あの日、となりの主婦に学校に行くと告げた後、急に気が変わってどこか別の場所へでも行ったのだろうか。それとも、登校の途中で誰かに拉致されたのだろうか。
『七瀬、今何処にいる?』
『誰といる。』
『返事をしろ、何があった?』
御船はスマホを額に当て、
グッと握りしめた。
ーーー頼む、七瀬。何か…、
何か返事をくれ。
何でもいい。場所が分からなくても、
せめて誰といるかさえ分かれば。
すぐにでも行く。
どこに居たって駆けつけるのに。
遠くでまたチャイムの音が聞こえる。
御船は刻一刻と過ぎて行く時間に、自分の無力さが募ってゆくのを感じた。
何もできない自分を無性に殴り飛ばしてやりたくなる。
ーーー七瀬、頼む。頼むから…。
手遅れにならないうちに。
早く…、
早く帰って来てくれ。
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