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梶圭介の初恋
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女の先輩が体操着を貸してと言う。
何でわざわざ一個下の異性から体操着借りるのか意味がわからないと思いながら二つ返事で了承した。
教室後ろの小さなロッカーから体操着の入った袋を渡しながら「すみません。洗ってないっす」と言えば「えー、やだー」と笑われたので思わず「そんなこと言うなら他クラスの友達から借りなよ」って言葉が口から出かけた。
早く去ってほしいのにその場でペチャクチャとどうでもいいことを喋りだす。
教室の入り口を一個、実質封鎖状態にしてしまった俺らを迷惑そうに見る女子生徒に申し訳なさを覚えながらも、ただただ笑顔で相づちを打つ。
結局先輩は次の授業開始5分前になって立ち去った。
おせーよ、クソがって俺の本音を先輩が知ることはきっと一生ない。
「体操着貸してた?」
隣の席の小山内が次の授業のノートを開きながらそう尋ねてくるので頷くと「すごいね」と笑う。
「でもあの先輩、彼氏いなかった?」
「いるよ。りょーたさん」
うちの中学一目立つ男の先輩の名前を出すと、小山内は一瞬沈黙してから小さな声で心配してくれた。
「大丈夫なの?」
「……多分」
「なにその微妙な感じ」
「わかんね。でも今んとこ何も言われてないから大丈夫っしょ」
ニカリと歯を出して笑えば小山内が安心したように笑顔を漏らした。俺は小山内の控えめな笑顔が好きだった。
「梶って笑うと本当に犬みたいだね」
「なにそれ、褒めてんの? 口デカいからかな?」
口のデカさは自覚があった。小さな頃から大食らいの俺を母親が「口が大きいから一気に沢山入るね」とちょくちょくいじってくるので、人よりデカいのだろうと刷り込みのように思っている。それによく可愛いと言われる八重歯も伴って、確かに俺の顔は犬っぽいかもしれない。
「梶は口だけじゃなくて、全体的にパーツが大きいよね。目とか、手とか、背とか」
「普通じゃね?」
「そんなことないよ。顔ハッキリしてて、どう考えてもカッコいいよ」
同性にカッコいいと言われるのは異性にカッコいいと言われるのより、よっぽど恥ずかしいのだとこの時初めて知った。
照れて上手く返せない俺に気付いた小山内がつられるように顔を赤くさせる。
「って、この前女子が喋ってた……」
語尾にいくにつれて小さくなる声に笑いを堪えきれず、噴き出した。どんな誤魔化し方だよ、それ。
ゲラゲラと笑う俺に、もっと恥ずかしくなったのか小山内の顔が更に赤くなっていく。
男にしては白い肌が首から色づく様に笑いながらも背筋がゾクリとして、言い様のないモヤつきが心臓に纏わりついた。
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