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教室登校6
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走って、走って、気づけば1階まで来ていた。
ふと目がついた部屋の看板を見上げる。
『保健室』
ガラガラ
「失礼します」
どうしてここに入ったのか分からない。
ただ、誰にも見つからない場所を探していただけかもしれない。岡田くんにも滝沢さんにものみーにも気づかれない、僕だけの部屋。
「はぁい」
返事をして出てきたのは、若い男の先生だった。
茶色がかったふわふわの髪の毛に細淵眼鏡をした、優しそうな人。
「君は、初めての人だね。ようこそ保健室へ。どこか具合でも悪いのかな?」
「え、えっと、具合は」
そうだ。よく考えてみれば、保健室なんて具合が悪くなるか怪我かしないと普通入らないじゃないか。
そんな当たり前のことを今更のように思い出して、焦る。
でも、目の前の先生は何も言わずふふっと優しい笑みを浮かべるだけ。
「別にね、具合が悪いってイコール病気ってわけじゃないんだよ。そんなに気負わないで」
「へっ?」
すごく、意外なことを言われた気分だった。
「例えば、友達と喧嘩して気分が落ち込む。それだって立派な、ここにくる理由になるんだよ」
「…喧嘩じゃない」
不思議だけど、この先生の前だとなんでも話したくなる。
出会ってすぐなのに、どうしてこんな風に思えるんだろう。
ただ一つわかるのは、この人はのみーや他の先生とは違う。きちんと、僕の話を聞いてくれる人だってこと。
「僕がっ、僕がされたのは、喧嘩じゃない。そんな、対等で平等なものじゃ、ない」
「うん、そうだね。君を見ていたらわかる」
「え、わか、るの?」
聞くと、この先生はもちろんと答えた。
「だって君、心がすごくボロボロだから」
その言葉が今までの言葉のダムを破壊して、全てを話すことになった。
机や椅子が毎日落書きされたりなくなったりしていること。
教科書やノートを水浸しにされて捨てられたこと。
顔に黒板消しを押し付けられて気持ち悪くなるほどチョークの粉を吸ったこと。
顔や大切にしていたものをトイレの水の雑巾で拭かれたこと。
殴られたり蹴られたりしたこと。
僕の嘘の悪口を学年中に回されたこと。
大切なものを壊されたこと。
先生たちはみんな知らんぷりすること。
そして、僕のこころも限界なこと。
途中で、言葉がつっかえて上手く話せないこともあった。
それでもその先生は、最後までうんうんって聞いてくれた。
「辛かったんだね」
「うん、うんっ。僕、辛かった。なのに、誰も、気づいてくれなくて」
「そしたら、これからは辛くなったらここにおいで。僕に全て話して」
目の前の先生は、ニッコリ笑う。
「ところで君、お名前は?」
「え、えっと…こおりやま、はるかです」
そしたら先生は嬉しそうに目をパチクリさせた。
「僕も遥って言うんだよ。遥一郎。僕たち遥仲間だね」
それが、遥先生との出会いだった。
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