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― ep.2 ―(3)
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「――え?」
突然すぐ近くから声がして、
驚いてそちらを見たら……
「(わぁ……)」
一瞬、女性かと思った。
けれど僕らと同じ制服を着ているその人は、紛れもなくこの男子校の学生だ。
その顔はあまりにも美しくて、
俺は自分がまだ絵の世界に囚われたままなのではないかと疑ってしまった。
「僕の絵と美術部の張り紙を交互にじっと見ていたから、
入部希望者だと思ったのだが、違ったか?」
「あ……えー、と…」
僕の絵……?
「この絵、あなたが描いたんですか?」
「そうだ」
…それは何だか、凄く納得がいった。
この素晴らしすぎる絵を、なんというか…「絵みたいな人」が描いている。
なんて綺麗な世界なんだろう…あーあ、益々自分なんかお呼びでない気がする。
「そのつもりだったんですけど、ちょっと迷い始めてて」
「…そうか。
ここには絵を教えてくれる指導者は居ない。
この美術部で得られるものがある奴は、
指導者なしで独自に修練したい奴と、
少数の仲間とちょっとした意見交換ができればいい奴と、
……」
「……」
「あとは、空っぽな奴だけだ」
「……
空っぽ……?」
今ここで出会ったばかりのこの人は、
一体俺に何の話をしているんだろう…?
あまり人間らしさのない無機質な美貌も相まって、
この人との会話が何となく怖くなってきた…。
「あの………」
「……僕は3つ目だ」
「…え?
3つ目って……“空っぽ”、ですか?」
そして突然、意外なことを言い放った。
何だよそれ…。この絵を描いた人が、空っぽって…
素人同然の俺だってさすがにそれはおかしいとわかる!
「そんな。この絵を描いた人が空っぽだなんて、
いくらなんでもそんなわけないですよ!」
「そう思うか?」
「思います!」
その人は、表情の全く読めない顔で俺をじっと見つめると、
すぐに目を逸らし、自分の作品が掛かっている壁を向いた。
肩まで伸びた緩いウェーブのかかった髪が、整った横顔に軽くかかる。
柔らかそうな髪……触ったら気持ちよさそうだなぁなんて、
つい場違いなことを思ってしまった。
「それなら、君の目は節穴だ」
「……
……
はいっ?」
「入部したいのならばすればいい。
クラブ見学は今日からだ。
それじゃ」
それだけ言うと、そのまま俺に背を向けてスタスタと歩き去って行ってしまった…。
…えぇ〜……? …どういうこと?
「なんか……初っ端から凄い人に会っちゃったな……」
今日のクラブ見学、いちだんと不安になってきた…。
必要以上に緊張するはめになってしまったけれど、
…しかしなぜたろう?
さっきまで入部を迷っていた気持ちがすっかりどこかへ行ってしまい、
見学前からもう入部届けを書いてもいいような気にすらなっていたのだ。
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