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良く言えば臨機応変
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(久我side)
いつもよりも早い時間に、同居人が帰ってきた。
同居人というか家主なんだが。
色々あってこの高校生の家に厄介になっている身だから、家事をして自己満足を得ているような生活をしているのだが。
そんな自己満で今日も今日とて洗濯物を取り込んでいた時だった。
これまでも(といっても、ここ数日の話でしかないが)疲れて帰ってくることはあっても、いきなり布団に飛び込んだりすることはなかった。
汚れた体で布団に入るのが抵抗のあるタイプなのだろう。
そんな児谷が、部屋に戻ったらこの有様だった。
普通に心配だった。
自分の中に存在する、自分でも理解と制御のできない気持ちを差し引いても。
人として。
熱でもあるんじゃないかと思うような、怠そう(だるそう)な表情とか、赤い顔とか。
・・・上気した頬とか、涙を浮かべた目とか。
そういう全てをひっくるめて、俺は児谷を心配していた。
でも当の本人は大丈夫、一人にしてほしいの一点張りで何も教えてはくれなかった。
居候(いそうろう)の身として、児谷の力になりたいと思うし、負担になりたくないと思う。
だから、そんなことを言われてしまえば、従わないことにはならなくなる。
今、一人になりたいのなら。
何故か混乱している様子の児谷を部屋に残し、俺は部屋のドアを開けた。
「ゆーすけくん、大丈夫そう?」
だから。
全てを見透かしたかのようなその言葉を聞いたとき。
俺は足を止めずにはいられなかったのだ。
<***>
とりあえずコンビニでも行こうかと、階段を数段下りたところで聞き覚えのある声がした。
「ゆーすけくん」
その名前に振り返ると、部屋の前についている柵にもたれかかるようにしてこっちを見ながら薄ら笑いを浮かべている男―隣人の柏原、とかいう男がいた。
悠介・・・つまり、児谷がどうしたんだと、目で訴えると
「大丈夫そう?」
そう言い放った。
「・・・てめえ何か知ってんのか」
含みのあるその言葉に、自身の言葉が怒気を孕む。
「うわぁ、やぁだね。本当に極道なんだ」
口が悪いよ、と溜め息交じりに俺に喧嘩を売ってくるお前の方こそ何モンだよと言いたくなったが、それを押し殺し、ただ睨む。
「・・・君がここに住みついちゃったから、碌(ろく)に『発散』できてなかったゆーすけくんが可哀想だなって思っただけだよ」
柔和な話し方だが、その言葉の裏は分かりやす過ぎるほど悪意に満ちている。
「何の話だ・・・」
未だ、階段の数段下からその男を睨んでいるが、言葉がどんどんトゲを持ち始めた。
自覚はある。
やめる気はないが。
「ゆーすけくんを気持ちよ~く、スッキリさせてあげたんだよ」
ひらひらと動かして見せた手が、何とも言えず艶めかしく(なまめかしく)、何だかその言葉の真意を感じ取ってしまった。
「すごく可愛かったよ。声を我慢できないのとか、脚開いてるとことか、顔真っ赤にして恥ずかしがってるとことか・・・」
「ッ!!!」
恐らく、言葉を最後まで聞くよりも先に身体が動いていた。
階段を上り、その勢いのまま胸ぐらをつかむ。
「てめえ・・・!!」
しかし柏原は怯む(ひるむ)様子もなく。
「俺だってまだ手を出すつもりはなかったよ。まだ優しいお隣さんのままでいようと思ったよ。でも君が来たから・・・悠介くんを苦しめるような奴は、俺が許さない」
口角を上げたまま。
目は笑っていない、ソイツが言う。
児谷を、苦しめている・・・。
それに関しては、反論の余地は、無い。
俺は児谷に救われてばかりで・・・。
児谷は・・・。
俺のせいなのか?
「君のせいだよ」
「やめろ・・・」
「君が来なければ、悠介くんは隣人にあんなことされなくて済んだのに」
あんなこと・・・。
児谷に一体何をしたんだ・・・?
でも、俺だってコイツをどうこう言う資格はないのかもしれない。
俺だって児谷の・・・ハジメテを、手前勝手に奪ったのだから。
「君がいない方が、悠介くんも幸せだよ」
俺は児谷のためなら何でもしてやろうと思っている。
恩人でもある児谷のために何か、何でもしてやりたいのだ。
でも俺のせいで児谷が不幸になるのなら。
俺なんて。
俺、なんて。
「ここに君の居場所はないよ」
柏原が言い放った言葉は、
空っぽな俺の中を反響し続けた。
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