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「コーヒー淹れるから。」
潤んだ目で睨まれながら、手を引かれた。
そんな目で睨んでも、煽られるだけだ。愛しくて、すぐにでもその背中を抱きしめたいけれど、グッと我慢して家に上がった。
玄関に入ってすぐに古びたキッチンがあった。昭和を感じさせるガラス扉で仕切られた奥に入ると、右側に寄せたベッドと小さなテーブルが目に入る。左手にはカラーボックスが横向きに置いてあり、その上に小さなテレビが乗っていた。
キッチンでコーヒーの準備をしている小夜から「適当に座っていてね。」と声をかけられた。
「ん。」
返事をしつつ、ぐるりと部屋を見学する。
テレビの横にはリモコンが綺麗に並んでいて、手前には小さなサボテンと卓上カレンダーが乗っていた。そのカレンダーには今日の日付に丸がつけてあり、『11時風見さん』と綺麗な字で書いてあるのをみて、思わず笑顔がこぼれた。
カラーボックスに入っている本のタイトルを眺めていると、クーラーが効き始めた。と同時にコーヒーの良い香りが漂ってきた。
こじんまりとした部屋だが、清潔感があって、居心地が良い・・・。
ベッドを背もたれにして座る。目の前の小さなテーブルには、メモ用紙とボーペンだけが置かれて、埃1つ、カップの跡すらない。
ここが、小夜の部屋。
何となく天井を見上げていると、かちゃかちゃと言わせながら小夜が戻ってきた。
「ふふ。上手に出来てれば良いんだけど。どうぞ。」
「・・・良い香りだ。」
マグカップに注がれたコーヒーを受け取り、香りを吸い込んだ。
「ん・・・美味しい。」
「良かった。」
ふふ、と笑いながら向かいに座ろうとする小夜の手を捕まえて、隣に座らせた。
途端に真っ赤になるこの子は、もう、なんなんだろうか。
肩に手を回し、頭をくっつけさせると、携帯を取り出した。
「写真、見よっか?」
こくりと頷く頭を左手で撫でてロックを外す。今日の大切な思い出をふたりで眺めた。
そこには丼をもって幸せそうに笑う俺たちがいた。
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