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「自己紹介タ〜イム!」
ぱんぱかぱーん、とふざけた効果音までつけてそう言う金井をぶん殴りたくなったのは仕方ないことだろう。
「お名前はなんですか!フルネームで!!!」
「……二葉、伊澄」
「いずみさん!どーゆう字書くの?」
「…苗字の伊藤の伊に澄んだ川の澄」
「へえ〜、綺麗だね!伊澄さんにピッタリっすね!!俺はね、金井翔太です!!国際学部二年!!!」
……いつかの、言葉を思い出す。
そういえば、あの人にもそんなこと言われたな
「アホ、気安く呼ぶな」
「えー、いーじゃん!てか、俺の名前はスルー?呼んでくれてもいいんだよ??えっとー、あとはー、二年生なんだよね同い年だと思わなかったな……」
同い年ではないが訂正するのもめんどくさいので放っておく。
「じゃあ、誕生日は?」
「11月18日」
「秋生まれなんすね〜」
「同級生って分かってんのに敬語外さないんだな」
「え!あ、そか!別に先輩じゃないんだよな、じゃー外す!」
単純というかなんというか
なんか騙されそうだなこいつ
「伊澄さんは部活とかサークル入ってる?」
「…入ってない」
さん、は外さないのか
よくわかんない奴
それから小一時間くらいそんなやり取りを繰り返していた。
「いや〜!これでお互いのこと結構知れたね!!」
「…。」
疲れた…
バイトしてるか
してるなら何をしてるか
好きな食べ物は
身長体重
血液型
パンツの色…とにかく色々聞かれた。
いや、パンツってなんだバカかよ
とにかく疲れた。
金井はピンピンしてるし
しかもちょっと元気になっているくらいだ。
コミュ力の化身が持つ体力はやはり違うようだ。
こちとら話すだけで体力も労力使いまくりだ。
疲れ切ってるの気づけよ
「そーいや、伊澄さん今日倒れたんじゃん!!!こんな時間まで付き合わせてごめん!!」
ハッとしたかと思うとまたひとり百面相
そこまで焦らなくても良くないか?
「別に、元々話すって言ったのは俺だしな。」
当初の目的と違うとはいえ
話はつけられたのだからまあ及第点だろう
窓の外に目をやると、日は既に傾き始めていた。
橙色と藍色の境界線が、なんとも幻想的だった。
綺麗だ。
と、
パシャッ________
窓の外を眺めていると
近くで無機質の乾いた心地のいいシャッター音がした。
かと思えばどこから出したのか一眼レフを構えている金井
「っ」
「あ、すいません。すげえ綺麗だったからつい撮っちゃった」
「アホ、消せ」
「ええ!?やだよ!すげえ綺麗だもん!!!」
180近くある大の男がもんとか使うな気色悪い
それより写真、くそ、気抜いてた。
自分がそこまで気を抜いていたことにも驚いたし
普段だったら罵倒という罵倒をあびせるのに
なぜかそこまでの気は起きなかった。
「あ、そうだ!伊澄さんにもう一個お願いがあります!」
「あ?」
「撮っちゃったついでに、写真のモデルやってください!」
「……は?」
また漏れた間抜けな声
「今度のコンクール様に今色々撮ってるんだけどなかなかこれだってのが撮れなくて、伊澄さんが協力してくれると捗りそうだな〜って!」
「いや、知らねえよ」
「そこをなんとか!話も聞いてもらえない可哀想な俺を助けると思って!そんなに長い期間じゃないからさ!応募期間はあと一ヶ月だからその間だけ!お願いします!!!!!」
土下座しそうな勢いで詰め寄られる。
嫌だ、嫌だけど、こいつさっきの話も持ち出してきやがった。
あほそうに見えて強かすぎじゃないか…?
「おねがい」
「〜〜〜っ」
しまいには少し目元を潤ませて子犬みたいな顔して
そんな、目で…………
「………………一ヶ月だけだからな」
「マジ!?伊澄さんありがとう愛してるーーー!!!!」
「…、」
他意はないとわかっていても少し身構えてしまう。
にしても、なんか俺ちょろすぎじゃないか?
自分のことなのに今までと違う対応をしてしまう自身に困惑しか生まれない
写真なんて嫌いだ。
思い出も何もかも残しておきたくない
あとで振り返った時に苦しくなるだけだから
やったー!と大喜びをしている金井を他所に一人考える。
わからない、わからないけれど……
この一ヶ月で何か起こるんじゃないかという予感だけがそこにあった。
それが、知りたいなんて
俺はどうかしてる。
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