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渡辺side‥₁
負けたくない負けたくない
その一心で走り出す。
昔から短距離は嫌いじゃなかったけど長距離になると決まって最下位だった中学生時代。
だから高校ではバレない様に短距離で勝負しようとしてたのに、くじ引きで決まるし。
しかも氏原ちゃんと対戦だし。
でも、メラメラしてた癖に、ウチと同じようにすぐ先頭から差をつけられてる氏原ちゃんを見て、あれ?って思った。
もしかしてこれ、いけるんじゃね?
だいぶ運動苦手そうな走り方してるし。
「…う、氏原ちゃんおそ……も、っと本気で…走りなよね……はぁ…」
「……はぁ?…な、にいってんの…?ハァ…
僕…体力温存型だ、から……っ」
2人して強気なこと言ってるけど
一周で息も絶え絶えで。
なんか、氏原ちゃんって優しいのか怖いのかわからなくて特に最近は少し苦手だったけど、本当は強がりで負けず嫌いなだけなんじゃないかなって
何か、どことなくだけど自分と似てる感じ。
高木っち見る目がウチと同じだってとこも
こんなバレバレな運動音痴なのに煽り合ってるとこも。
先頭グループとの差は開くばっかりで、
こうなったら完全に二人の戦いだった。
ちょうど1位の先輩がウチらと並んだくらいのタイミングで聞こえた高木っちの声。
もう、どっち見て応援してるのかなんて
むかつくけど悔しいけどわかってたから。
高木っちの方をあえて振り向かずに残された体力全部絞り出すような気持ちでスピードを上げた。
高木っちはウチと同じチームなんだから。
ウチを応援してくれたんだもん!
「?!」
「た、高木っちの応援いただき~!」
「……なっ!!」
ぽやんとしてた氏原ちゃんはウチが抜かしていくのを見て目を見開いた。
高木っちの応援受けたのはウチなんだからね!負ける気がしない
なんて単純な脳みそなんだろ、自分ってほんと。
だけどそうやって騒ぎながら最後の1周に差し掛かった頃、
氏原ちゃんの動きが変わった。
それまでもフラフラしてたんだけど、なんかそれとは違って、今にも倒れちゃうんじゃないかっていうような
重心の定まっていない動き。
今なら勝てるって頭のどっかで思ってるはずなのに
今ウチが後ろに居なきゃ、氏原ちゃんが倒れたとき支えられる人がいないんじゃないか…。
急に怖くなって、氏原ちゃんが走る後ろをついていった。
もう、勝負とか勝つとかどうでも良くなってた。
そしてゴール目前で悪い予感は的中してしまう―――。
ぐらりと揺らめいた氏原ちゃんは、そのまま前に倒れ込む。
考えるよりも先に、無意識に体が動いた事に驚いた。
氏原ちゃんの身体が地面に叩きつけられる寸でのところで腕を引っ張り、脇の間に自分の身体を入れ込んだ。
その身体はウチの何倍も熱を帯びていて、暑い。
珍しく汗をにじませている氏原ちゃんの顔は、こんなに暑いのに真っ青。
これ…熱中症ってやつ……?
細身で華奢な氏原ちゃんは、ウチと体重もあんまり変わらないだろうけど、気を失った男の人を支えるのには結構力がいると思う。
火事場の馬鹿力ってこういうことだなあって
意外にも冷静な頭でそんな事を思った。
「っ渡辺!」
血相を変えた高木っちが、氏原ちゃんを抱えるウチのもとへ飛んできた。
「あ、た…高木っち氏原ちゃんが……体も熱くて…!!」
「あぁ…軽い熱中症だろ。…ったく、重いだろ。
…離していいよ、後は任せろ。」
軽々と氏原ちゃんを肩に担ぎ上げた高木っちは、さっきより幾分か落ち着いた顔をしていた。
よくわからないけど多分、そんなに重症ではないのかなって
高木っちの顔を見て安心した。
「つかお前、最後氏原センセー心配して力抜いてたろ。」
高木っちは目を細めてウチを見下ろすと、意地悪な顔でニヤリと笑う。
うわ、最悪…。
バレてたとかめっちゃ恥ずかしい奴じゃん。
「べ、別に疲れてたから…ゴールの直前で氏原ちゃん抜いてやろうと思ってただけだし……。」
これは半分は本当のことだった。
氏原ちゃんがフラフラしてくる前までは、残りの半周くらいで全力出してやろうと思ってたんだから。
だから別に、手を抜いてたわけじゃない…
「まぁでも本当、助かったよ。渡辺が居てくれなきゃ
こいつ怪我もしてただろうし。
ありがとうな。」
氏原ちゃんを抱える手とは反対の手で、ウチの頭をくしゃりと撫でる。
こういう撫で方、好きなのかな。
今までも何度かされたことがある。
ちょっと雑で強めの手つき。
心臓は動きを速めるのに、何故かそれがすごく心地いいんだ。
「あれ、今日は怒らねーの?髪崩れるぅーって。」
「は?まじ今髪の毛うる艶だからそれくらい余裕だから!」
最近よく見るようになった高木っちの優しい笑顔。
氏原ちゃんは普段からたくさん貰ってるのかなって思うとやっぱりずるいし妬いちゃうけど、
今日はそんな氏原ちゃんを助けてあげたんだから、
ウチだけに向けてくれたこの笑顔を目に焼き付けておくくらいは許してよね。
「なあ渡辺。お前まだゴールしてねえだろ。
ビリの称号を手にするか、身体張って男助けた英雄になるか選ばせてやるよ。」
「………………英雄。」
「よし、お前も一緒に涼みに行くぞ。」
「いぇ〜い!」
そんなこんなで、2人の途中棄権者を出した1000m走、そして体育祭午前の部は幕を閉じた。
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