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20 稲見先生side 穂中という生徒
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隣で俺の肩に頭を預け、すやすやと気持ちよさそうに寝る姿。
目にかかった髪を耳上に流してやると、俺にしか聞こえない小さな声を漏らして頭を擦り寄せてくる。
その愛らしい姿に思わず笑みが零れた。
――時は遡って入学式から数日経つ頃。
クラスでも仲の良い友達やグループ、新たな教師との会話が増える時期。
その日は俺の受け持つ一年二組で委員会やプリント配布など、今後必要な物を決める時間だった。
いつも通りに教室へ入り、いつも通りに出席を取る。
朝は全員座っていたが、今は奥の席が一つ空いていることに気がついた。
「穂中…、穂中はどこ行った?」
「保健室です。熱があったので連れていきました」
「そうか。分かった」
俺の目の前の席でそう言ったのは駒野芽鶴。
うろ覚えだが穂中といつも一緒にいるイメージだ。
出席簿に欠席、と書き込むとパタンと閉じる。
そこからは予め用意していたプリントを配り、それぞれ決めてもらうことを伝える。
このクラスは騒がしくないが、積極性があり、とてもやり易い。今も俺が口出ししなくても自分たちで進めている。
久々にいいクラスの担任になれたと思う。
後は任せて…と。
周りが話し合う中、黒板を使えるように穂中の席で他の仕事をしながらペンを滑らせる。
しばらくすると、不意に駒野が俺に声をかけて来た。
「稲見先生。ひう…穂中の様子を見に行きたいんですが」
「んー、そうだな」
「一人にしてしまったので、ちょっと心配で」
俺に対してまだ面識が浅いからか、目をキョロキョロと泳がせながら話す駒野。
行かせたいところだが、授業を抜けさせることは避けたい。そう思い俺は一つ息を吐いた。
「俺が様子見てくるよ。この時間はお前たちに任せても大丈夫そうだしな」
「そう…ですか。ありがとうございます」
ぺこりと丁寧に頭を下げる姿に真面目か、と一人ツッコミを入れる。今どき珍しい律儀な子だ。
つい癖で駒野の頭にポンと手を置くととても険しい目で見られた。
そんな顔されたの先生初めてだぞ。
『逃げ出さないように縛っているので、よろしくお願いします』
ここに来る前に駒野に言われた言葉。
縛り付けるって、荒業すぎるだろ。
真面目なのか抜けてんのかどっちなんだ。
一人苦笑しながら保健室の扉を軽くノックする。
だが、返事はない。寝てしまっているのだろうか。
確か保健医はこの時間いないはず。
起こしてはいけないと静かに扉を開け、中へと入る。
見たところ一箇所だけベッドにカーテンが閉められている。恐らくそこに寝ているのだろう。
ゆっくりと近づくとカーテンの隙間から様子を覗いた。
「は――」
自分でも分かる程、間抜けな声が漏れた。
目の前の光景に驚きが隠せずその場に立ち尽くす。
ベッドに横たわる穂中は寝てはいる…のだが、明らかにその姿がおかしい。
頭の上のポールに両手をネクタイで縛られ、暴れたのか、はだけた制服から細い体が見えている。
聞いていた話と一致するのだが、これは…
その瞬間俺の心臓がバクリと跳ねた。
いや、待て待て。
こいつは俺の生徒だ。ただ…そう、驚いただけだ。
そんな俺の思考とは反対に本能のまま体が動く。
泣いていたのか少し赤くなっている顔に触れると、穂中は上擦った声を漏らした。
そのままゆっくりと閉じていた瞼が上がる。
「んん……?」
焦点を定めていない虚ろな瞳は彷徨いながら俺を捉える。そして自分の腕が固定されているのに気がついたのか、小さな口を開いた。
「これ、やぁ…とって……」
「っ……分かった、取ってやるから」
ゴクリと喉が上下するのが分かった。
聞き馴染みのない柔らかい口調に促されるまま、ベッドに腰を掛け、結ばれていたネクタイを解く。
だいぶ抵抗したのだろうか、手首が赤くなり痛々しい痕が付いている。
こいつ、こんなに幼い喋り方だったか…?
穂中と対面して話したことはないとはいえ、声くらいは聞いたことがある。
だがその時は別に気にもならなかったはずだが。
正直そこらの女より妖艶で色っぽく見える。
悶々としながらネクタイを解き終わると、穂中は自由になった手を動かしながら俺の予想もしない行動に出る。
「んー、ぎゅってしてぇ…?」
「…は、ちょっと、待て。一旦落ち着け――」
「してぇっ、お願い…」
突然俺の首に手を回し抱きついたかと思えば、抱き締めろと甘えた声で強請ってくる。
引き剥がそうと腕を掴むが、穂中はポロポロと涙を流し始めてしまった。
俺はぎょっとして思わず手を止めた。
ほぼ距離がないと言っていい程の近さで、黒い瞳を揺らしながら懇願する姿。
その姿に今まで感じたことのないほど胸が締め付けられる。苦しいけれど、苦しさの中に何か違うものがある。
きっと俺は興奮しているのだろう。
でも、駄目だ、これ以上は。
と頭では思いながらも無意識の内に、目に付いた何処よりも赤く、熱い耳に触れた。
「んっ…ぅ……」
小さく、でもハッキリと聞こえたその声に、俺の中で何かがプチンと切れた。
その瞬間、俺の理性が本能に抗うことを止めてしまう。
視線が絡み合ったまま、俺は火照った顔に自身の顔を近づけた。
早く、この唇を、食べたい――
キーンコーン 、と。
乾いた鐘の音が保健室に響く。
その音に驚いたのか穂中は体をびくんと揺らし、ゆるりと俺から手を離した。
そして電池を切らしたかのように穂中の体は俺の胸に飛び込んでくる。そのまま寝息を立てて眠ってしまった。
予鈴で我に返った俺は頭を抱える。
俺は何をしようとしていたのか。
こんな高校生の子供に、男に、生徒に。
自分の行動を思い返すとじわりと額に汗が滲んだ。
「――はは」
己の未遂に終わった行動への羞恥。
そして、どうしようもない確かな興奮。
最低なことをしようとしたはずなのに、口角が上がって止まらない。
今度こそ離れられないように。
俺の愛を受け止めてもらえるように。
俺はぎこちない笑みを浮かべると、穂中の背中をそっと撫でた。
――それが俺だけの穂中との出会いと言える日だった。
あの後駒野に聞いてみれば、穂中は熱を出すと奇行に走り誰彼構わず甘えるらしく、あれは熱のせいでひと時の誤ちだったと気づく。
当の本人も何も覚えていないようで、後日声を掛けたが特に何の反応を示すでもなく、ごく普通の接し方だった。
だが、それでもその姿がいつか俺だけのものになる日が来るまで。
俺は穂中百馬という一生徒を落としていきたいと思う。
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