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翌日、休みというのもあって俺は朝からテレビを観ていた。
もちろんテスト勉強をサボっているわけではない、午後からちゃんとやる予定だ。
計画はバッチリ立ててある。
録画していたドラマも観終わって、ふわぁと欠伸をした。
「ひーくん、今からゆーちゃんとお買い物に行くけれど一緒に行く?」
「買い物?どこに行くの?」
「お母さん文房具を買いたいから本屋に行こうと思って。ゆーちゃんも新刊がどうのこうの〜って言ってたわよ?」
ひょこっとソファから覗けば、パタパタとスリッパの音を鳴らしながらお母さんが支度をしていた。
きっと夢の新刊とは冷酷王子と平凡女子の漫画のことだろう。
続きが良い所で終わっていて、俺も気になって夢と一緒に展開を予想してたっけ。
そう言えば昨日勉強用のノートもなくなったんだった。
二人が行くなら俺も行こっと。
俺も行くと伝えて、着替える為に二階の自室へと入る。
適当に黒のズボンとTシャツを着たあと、財布を持ってリビングへと戻った。
既に準備を終えていた夢とお母さんに連れて玄関を出る。
車に乗り込みシートベルトを締めると早速出発した。
「いつものやつ……あった。あとは――」
本屋に着くと目的の物を見つけ、手に取っていく。
必要なのはノートだけなので俺はいつもの場所へと移動する。
レジの近くに置いてある料理本コーナー。
気になった物を一冊手に取ると、パラパラと見ていく。
スマホで調べるのもいいけれど、やっぱり教本で見た方がしっくりくるんだよね。
作り方も細かく載ってる分わかりやすい。
色んな国の郷土料理か。
作ってみたいけどこういうのって専用のスパイスとかが必要なんじゃ。
…ほぉ、近くのお店で揃えられるんだ。
んーこの本買っていこうかな。
裏の値段を確認し、ムムと眉間に皺を寄せて悩んでいると不意に背中をトントンと軽く叩かれた。
何かと思い振り向いてみれば、そこには高身長で黒っぽい服を着たイケメンが立っていた。
「テストじゃなくて料理の勉強中?」
「い、稲見先生…?」
一瞬誰だか分からなかった。
いつもピシッと整えられている髪が今日はふわふわしていて、スーツも着ていないからラフな感じ。
見慣れない姿をジロジロと眺めていると、さらりと前髪を撫でられた。
にこりと細められる瞳に俺はハッとする。
「せ、先生には関係ないですよね、俺用事があるので行きますっ」
咄嗟に持っていた本を元の場所に戻した。
危ない、斉藤先生との作戦を忘れるところだった。
素っ気ないってこんな感じで良いのかな?
絶対怒られるから本人には言わないけれど、芽鶴を参考にさせてもらった。
そう思いながら伏せていた目を再び上げると、先生は何も言わずに驚いた様な不思議そうな顔をしていた。
その表情が珍しくて、少しだけ可笑しく感じた。
難しいと思ったけれど、案外演技しているみたいでちょっと楽しいかもしれない。
ぺこりと頭を下げて一礼すると、俺は会計を済ませる為レジへと向かった。
買い物を済ませた後、俺達は近くのレストランで昼食を取る事にした。
種類がいっぱいあって悩んだけれど、今日の気分はお肉だったのでチーズハンバーグにした。
「ねぇひーくん、夢さっきすごいイケメン見つけちゃった」
「イケメン?…もしかして物凄く身長が高い人?」
「そう!上の棚にある漫画取ろうとしたら、取ってくれたの」
高確率で稲見先生だ。
あんなに高身長でイケメンな人滅多に見ないし。
夢にも会っていたとなると何だか複雑な気持ちだ。
前菜のサラダを食べていると、突然プルルと電子音が鳴る。
何かと思えばお母さんのスマホの着信音だった。
「…もしもし、正樹さん?えぇ、今ひーくんとゆーちゃんと一緒にお食事してたの。うんそれで――」
正樹さん、ということは電話の相手はお父さんだろう。
半年前から仕事で海外赴任していて、しばらく俺もお母さんも会っていない。
と言ってもテレビ通話をするから寂しいとかはあんまりないけれど、お母さんはやっぱり本物が良いと毎回言っている。
「パパ帰ってくるのかなぁ?」
「嬉しそうだから有り得る」
さっきからお母さんの表情がいつにも増してにこにこ笑顔だ。
声も高く跳ねていて、きっと喜んでいるのだろう。
しばらくすると話が終わったようで、スマホを離し俺と夢に向き直った。
「夏にお父さん帰ってくるって。一週間だけだけど、やっと会えるわ…帰国日はみんなで迎えに行こうね」
喜びが抑えきれないようで、嬉しいと表情で伝わってくる。
よく考えてみれば好きな人と結婚しているのに一緒にいられないって結構辛いことなんじゃないのか。
海外だから早々会えるものでもないし、会えたとしても今回みたいに数週間程度だ。
お母さんってすごいなぁ、尊敬する。
俺と夢を育てて長年経つのに未だラブラブな二人は俺の自慢の両親。
俺にもいつかそんな人が現れるのだろうか。
そんなことを考えていると思い浮かんだのは数時間前に会ったばかりの人。
いやいや、稲見先生は違うでしょ…
ぶんぶんと頭を振って掻き消していると、メインのハンバーグが来て俺は目を輝かせながら食事を楽しんだ。
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