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わからない事からは、目を背けたい。
常にそう思っていた。
考える時間だって無駄だ。誰かのせいで自分が乱されるなんてもっての外だった。
なのにどうして、お前はいつも。
「風邪引くって。ほらこれ着替え。
身体も拭かなきゃ…ね?」
「るさ……、部屋戻れっ…待ってろってぇ…。」
俺の頭の中だけじゃ足りないくらい、いっぱいいっぱいにしてくるのはやめろよ。
小さな身体じゃ容量オーバーしてるんだ。余裕なんてないのに、更に押し付けてくるなよ。
……もう耐えられないんだって。
「待ってたら来てくれる?」
俺の家なのに逃げる訳ない。
むしろお前が待っていてくれるか聞きたいよ。
何処まで俺のような人間を受け入れてくれるんだ。
笑って楽しめるレベルなどとっくに超えてしまった厄介な大人を、あと何回、あと何秒、お前のそばに置いてくれる?
「行くよ。……行く、から。」
「ん。わかったよ。」
ゆるやかに輪郭に沿って滑る手が
首を伝い、肩に降りる。
怖いくらいに優しい笑顔で、佐々木は静かに目を閉じた。
佐々木の顔と、俺の顔とが距離を縮めて
多分洗面台の鏡には2人の影が重なって見えて。
噛んでいた唇を思わず解放してしまうくらいには、直ぐそこにまで佐々木の唇が迫る。
吐息の重なる距離。
浅い呼吸を繰り返す俺と違い、佐々木は深くゆっくりとした息遣いだ。
これ以上は無理だ。佐々木の睫毛の微振動すらピントを合わせた眼球を、力一杯瞼で覆う。
だが
こつん、と頭に感じた衝撃で、自身の求めたものでは無いと気がついた。
額同士が触れ合い、鼻の頭がぶつかって
なのに唇に感触は無い。
「話いっぱい聞くから。ゆっくり着替えておいで。」
「………あぁ。」
佐々木は濡れてしまった前髪をタオルで叩き、背を向けて歩き出す。俺はそんな佐々木を見えなくなるまで、ただただ目で追った。
この後に及んで、なんて浅はかな事を望んでいたんだろう。
キスは大切な相手のために取っておけと、そう言ったのは俺なのに。
触れ合えるだけで幸せなんだ。それ以上なんてあり得ない。今だって奇跡みたいな事なんだ。
どうして人の願望というのは、限界を知らないのだろう。
ある一定の満足値を越えれば次の欲が押し寄せる。自らの意識でありながら、抑えが利かないそれに呆れた。
そして、時間にすれば1分にも満たなかったであろう先程のやりとり。
ほんの一瞬彼の匂いが鼻を掠めたそれだけで、下腹部に熱が集まる不快感。
妙な疼きと共に出しゃばる、欲の象徴ともなる昂りを、タオル越しに強く握った。
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