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#2 いじめられっ子
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「なあ、あれ見ろよ。」
放課後、帰宅しようと階段を下りると踊り場
の窓に男子生徒三人が屯していた。絶対生活指導の教師に目を付けられているであろう短髪金髪を中心に赤茶髪でピアスを小鼻に付けてる奴と黒髪パーマの男が左右に並んでいる。
特に意味もなかったが、こういった明らかな不良の前を横切るのはどうも抵抗がある。亨自身は教師と交際という禁句を犯しているが不良でもなんでもない。かといって地味なヲタクの部類でもない。
一目置かれてるやつにすれ違いもしたくないのは当然だ。
階段の途中で足を止め、三人の様子を窺った。
「美化委員の大藪じゃん。」
「あいつ、あんま教室こねーよな。つかキショ。花見てニヤニヤしてるよ。」
「ちょっとさ、あいつからかってみね?なんか面白そうじゃん。」
その三人の中の中心であろう男がそう提案する。
男たちは口々に「賛成。」と言うとその場を去って行った。
窓の方へ近づき外を覗き込むとグラウンドが見え、校舎の真下の花壇に人がいた。
男達が言っていたようにその男は嬉しそうな顔をして花を眺めていた。
ふと、昼休みにすれ違った男だということに気づく。遊び心のない髪に地味な眼鏡。間違いなかった。
しばらく窓の外を眺めていると、先程の三人組が
男に並んで近寄ってきていた。
男達に素を向けて花壇の前でしゃがんでいる男に近寄っては金髪が後ろから背中を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされて花壇に倒れ込む男。
男が態勢を整えて立ち上がろうとしたとき、残りの二人が蛇口を全開にしたホースの水をかけて男が立ち上がるのを妨害していた。
懸命に顏を腕で覆って水を避けようとする男をみて笑いあっている三人組。
見ていて見苦しい光景だ。こんなのは暇人のやることにすぎない。
亨は窓の外を覗くのを止めると階段を下りて行った。
校舎内を出ると男を苛めていた奴らが陽気に
校門を出ていく姿があった。飽きて止めたのだろう。
亨は苛められていた男が気になりはしていたが
自ら花壇の方へ向かおうとは考えていなかった。
何処の誰かも分からない奴に手を貸す気などないし、今更出て行ったところですでに遅い。
こんなのは教師に任せておけばいいと思っていた。
考えながら閘門に向かって歩こうとした時、腕に誰かがぶつかった。
左腕に冷たさと湿っぽさを感じて振り返ってみると花壇の男が水滴を地面に落としながら、俯きがちに校内へと入っていこうとしていた。
普段ならスルーしている。
そのはずだったが、無意識に追いかけては男の右手首を掴んで引き止めていた。
男は突然掴まれて驚いたのか、体をビクンと震わせながら横目でこちらを見ている。
「ぶっかってしまって、すみません。」
此方には一切目を合わせずに俯いたまま男が喋る。まるでリストラを言い渡されたサラリーマンのよう。
「服濡れてるけど、どうすんの。」
「そのまま帰ります。」
男は聞こえるか聞こえないかの声量で言う。
身長は然程亨と変わらないはずなのに肩を落としているせいか、酷く小さく見えた。
「そのまま帰ったら風邪ひくでしょ。」
「僕は大丈夫なので・・・すみません。」
此方が気を遣っても素っ気のなく返してくる男に何も返す言葉もなく掴んだ手を放した。
男は軽く会釈すると靴箱に向かっては靴を脱ぎ始める。
花を見て笑顔だった先程の表情が嘘のように暗く沈んだ様子だった。
これ以上関わってはいけない。そう思ったのはつかの間、亨は強引に男の手首を掴んでは外靴を荒々しく脱ぎ捨て、その勢いで男の手を引いた。
思っていたことと真逆の行動を起こしている自分に驚く。
自教室まで連れて行こうと、男が何か言いたげにしていた様子を無視してひたすら歩く。
亨は教室の黒板前で男を待たせると、室内の後ろにある自分のロッカーからジャージをを取り出す。
待たせていた男に近づくと取り出したジャージを差し出した。
「これ着て帰れよ。俺、あんま使ってないし。」
男は一瞬目を丸くしてこちらを見ると、直ぐに伏し目がちになってしまった。
「いいです。あなたに迷惑をかけてしまいますし。」
目を泳がせて断じて受け取ろうとしない男。
亨はそんな男が腹立たしかった。
「びしょ濡れの方が床汚すし、清掃の人に迷惑かかると思うんだけど。人が貸すって言ってんだから素直に受け取れよ。」
少し強めに言葉を放ったら、男は体を震わせ怯えた様子でジャージを受け取った。
男は「すみません。」と頭を下げて謝ると周りを見渡しすぐさま着替え始めた。
「ここで着替えんのかよ。」
Yシャツを脱いだときに見えた、白くて弱そうな背中。汚れのなさそうな背中にドキリとしたのは一瞬だけで、亨にとってこういったタイプの人間とは縁がないだけにあまり得意ではない。
一生仲良くならずただのクラスメイトで終わるタイプ。
何故男に手を差し伸べるような行動を取ってしまったのかと後悔しつつある。
亨はなんだか居たたまれず男から逃げるように
その場を去った。
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