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少年として育ったハル-2
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栗林ハルは女性としてこの世に生を受けた瞬間から、本来は無条件に喜ばれる権利を持ってはいなかった。
既に三人の女児に恵まれていた栗林家は、次こそは男児を授かりたいと願っていた為、口には出さずとも傍から見るとあからさまな程に落ち込んでいた。
「ハルはピンクより青色の方が好きなのよね」
「この子は脚が長いからスカートで隠すのは勿体ない。ーーほら、短パン姿がこんなにも似合っている」
父親に似たハルは凛々しく端正な顔立ちをしていた。
栗林一家は自身の欲求を満たすために彼女を操り、好みの色や服装を決めつけ息子のように育てていった。
物心ついた時からこのような有様だったので、ハルはなんの疑いも無く両親や姉妹の思惑通りイケメンに成長したのだが、小学六年生の夏に初潮を迎えた際、初めての違和感に戸惑った。
「……ぐすっ、『僕』は、もう家族から見捨てられる……ふぇっ、いらない子なんだ」
昔のように赤飯を炊いてお祝いをする家庭は少なくはなったが、喜ばしいことには変わりはない。
しかしハルの女性への成長に狼狽える栗林一家の態度に傷付いた彼女は、家を飛び出し美琴の部屋に駆け込むと長い間号泣し続けた。
唯ならぬ様子に驚いた美琴はハルの家族に対して怒りが湧き、彼女を連れて栗林家に乗り込むと、家族の身勝手によってハルの生き方を決めたことを咎めた。
美琴は知っていた。
ハルが本当はピンク色が好きだったことを。
自分を『僕』と呼ぶことに疑問を持っていたことを。
「自分の好きにすれば良いじゃない?」
まだ幼稚園生の頃、何も考えずに放った美琴の言葉に対して、ハルは曖昧に笑っただけで口を噤んでしまったのだが、もう少し突っ込んで話を聞いてやれば良かったと激しく後悔した。
「家族の期待に答えなきゃ、嫌われると思ったんだ……僕が、男だったら良かったのに」
その言葉を聞いたハルの家族はようやく自分達の過ちに気付き、罪悪感で言葉を失い立ち竦んだ。
すごい剣幕で怒り狂う美琴に「もういいよ、ありがとう」と泣き腫らした目で弱々しく言ったハルは、何かを決心したように唇を噛み締めて家族へ向き合った。
「僕はもう……言いなりにはならないよ。これからは好きにするーー」
「ごめんなさいハル!」
「「「「ハル!」」」」
家族は父親も含め皆泣きながら口々に謝ると、とんでもない事をしてしまったと反省し、どうやって償えば良いのかと頭を抱えた。
(泣いて済む問題じゃないでしょ)
一人冷ややかな目で傍観していた美琴の頭をするりと撫でたハルは、ふっと吐息を吐くと柔らかい声で家族に告げた。
「やだなぁ。今まで通りで良いんだよ。ただ、これからは僕が自分で考えて、選んで、好きにやっていくからさ。見守っててよ」
どこか吹っ切れたハルの心からの声を聞いて、その場にいた者全てが次こそ間違えないぞと心に誓った。
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