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衝撃的な学園祭-1
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月島直斗に招待されて二人が赴いた学園祭で、ハルに異変が起きたのは二十七歳の時である。しかし残念ながら恋などという甘酸っぱいものではなく親友の美琴にしか話せない内容であった。
メインアリーナと呼ばれる体育館は流石一流名門校と呼ばれるだけあり、惜しげも無く高価な機材を取り入れた大変豪華なものだ。
「これを体育館と呼ぶには無理があるよな」
「お金持ちの考えることって分からないわよ。さあハル、行こう」
弟の勇姿を間近で見る為に前日から学園に一番近いホテルへ宿泊し、開門前から並んだかいも有って前から二列目の席を確保することが出来た。
この学園は生徒に自主性を持たせる為に、教師が口を挟むことは極端に少ないようだ。
挨拶のためステージに現れた生徒会長が神崎と名乗った瞬間、あの日本有数の神崎グループの子息だとすぐに分かった。
まるで王子様のような風貌に何故だか従いたくなるオーラを振りまく姿には冷や汗が出たものだが、彼がリーダーとして取り仕切る学園ならば安心して直斗を預けることが出来ると思えた。
「神崎くんって確か中等部の頃も生徒会長だったわよね」
「そ、そうだっけ?なんか、爽やかだけど威圧感が半端ない子だな」
二人でヒソヒソと話をしながら理事長並みの挨拶を綺麗に終わらせた神崎に唯ならぬ恐怖を抱きつつ、彼がステージから姿が見えなくなるまで見守った。
ふと後ろの席から聞き慣れた声を耳にして振り返ってみれば、直斗の部活動仲間がにこやかな顔で話しかけて来た。
「やっぱり!月島のお姉さんたちだ!お久しぶりです」
「あぁ!水泳部の皆さん!先週の大会以来ね。入賞おめでとう」
いかにも鍛えていそうな立派な体格をした生徒が二人並んで挨拶をしてくれたので、今日の即席バンドについて幾らか質問をすると、二年生の中で人気投票が上位の者で結成されたのだと説明を受けた。
直斗は水泳ではなかなかの好成績を納めていたのでファンも多いと聞いたことがあり、まるで自分の事のように誇らしくなった。
「あと友情出演で『学園の魔術師』も出るんで、期待してって下さいね!」
スレたところのない笑顔で一通り話したあと、二人は模擬店にも来て下さいと宣伝をしてから出口へ向かっていった。
「どうやら私たちが来る事を直斗から聞いてたみたいね。わざわざ挨拶に来てくれるなんて可愛い子達だわ」
うっとりしながら感想を述べる美琴を静かに見ていたハルは、先程聞いた話に出てきた名前が気になり俯いてしまった。
彼らの話に出てきた『学園の魔術師』と呼ばれる佐藤は、昨年の夏に悲壮な顔で帰省した直斗から打ち明けられた初恋の相手だったからだ。
しかも失恋をしてかなり落ち込んでいた。
「あは、ハルは優しいのね。直斗はもうスッカリ立ち直っているんだから気にしないで!」
美琴の無理のない明るい声は真実を告げているのだろう。
確かにあの失恋の経験は直斗を一皮剥かせて彼を一回り成長させたエピソードで間違いないのだから、ハルが引き摺っているのもおかしな話なのだ。
「そうだな」
自分よりも先に恋を知った直斗が大人に見えて照れくさかったことを思い出し、なんだかいたたまれなくなったハルは視線を彷徨わせたあとステージに戻した。
自分も女子から慕われていたので直斗の初恋相手が同性であったことには驚きはなかったのだが、なんだかソワソワする。
弟分の直斗が失恋を乗り越えて、その相手と再び同じステージに立つ瞬間に立ち会えることを嬉しく思うハルだった。
「あーー、素敵だったね!私たちの文化祭とはスケールが違うって毎回驚かされちゃう」
次の日の仕事に差し障りがないように、直斗を見届けたあと一足先に学園を後にした二人は、なかなか現実に戻ることが出来ずにぼんやりしながら歩いている。
最寄りの駅まではタクシーを呼ぶ以外はバスに乗るしか交通手段はなく、学園前の停留所に向かいながらふらふらしていると、美琴はハルの様子がおかしいことに漸く気が付いた。
「ハルどうしたの?最後まで見ていたかった?」
「いや……そうじゃなくて……なんだか……体が変だ」
「ええ!?熱でも出した?とにかくバスに乗りましょう!」
自分とは違って風邪すらひかない健康体のハルが、自ら体の異常に気がつくなんて余程のことだと慌てた美琴は、未だにぼんやりしているハルを支えてバスの停留所まで導いた。
途中で額に手の甲を当てて計ってはみたが熱はなさそうだと一安心し、ほんの少しだけ汗ばんだハルの手を引いて道を進んだ。
肌寒くなって来た季節は日が暮れ出すのも早く、全体的にオレンジ色に染まる景色と潤んだ瞳で頬を染めたハルの顔を見ながらバスが来るのを待った。
ネットで事前に調べていたおかげでさほど待ち時間もなくバスが到着し、無言で心ここに在らずのハルの様子に首をかしげながらもそばに付き添い、美琴は窓から流れる薄暗い街並みに視線を移した。
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