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魔物討伐 後編-2
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ハルが駆け出した先は怒号と悲鳴が渦巻く世界で、死闘が展開されていた。
そこでは美しい白髪を振り乱したジュリアスが、第一騎士団 団長・コナーの制止も無視し、最前列で魔物を次から次へと切りつける姿が見られた。
ジュリアスの補佐についた魔術師は彼の援護として結界と強化魔法を施していたが、力尽きて先程撤退したとの報告があった。
倒してもキリがないほどの敵にわざと向かっていく戦い方は、まるで死に急ぐ者のようで、周りの騎士達もその気迫にたじろいでいる。
「ジュリアス!無茶な戦いは止めるんだ!」
ハルは此方に向かってくる魔物を剣で払いながらジュリアスへと近づいて行くと、漸く彼の表情が分かる程度まで距離を縮めた。
「ジュリアス……無理をするなっ」
ハルの言葉に気が付いたジュリアスが振り向くと、彼の目尻から一筋の涙が零れて落ちた。
「ハル!危ない!」
リバーダルスの叫びを聞いて緊張が走った瞬間一斉に攻撃方向を変えた魔物達が、ハルに向かって突進して来るのが見えた。
焦ったハルが咄嗟に水魔法を思い出し、どのように防御するのか素早く頭を働かせていると、白髪の美しい青年がシルバーの瞳からボロボロと涙を流しながらハルの目の前に立ち塞がった。
「ジュリアス!何をやっている!」
その場の騎士が叫んだが、時既に遅く、S級認定の魔物・ラビッタの鋭い鉤爪がジュリアスの背を抉るように引き裂いた。
直ぐに特別騎士団の魔法騎士が集まり結界を張ったが、ラビッタの爪で割られてしまうので追いつかず、それぞれ火魔法や風魔法で攻撃体制に入った。
「テッド!ジュリアスを頼んだ!」
「了解です!」
背中から血飛沫を上げながら倒れ込んだジュリアスへと救護班が駆けつけ、テッドと一緒に砦の中へと向かう姿を見届けると、ハルはガタガタと身体が震えるのを拳に力を入れておさめようとした。
「ハル!避けろ!」
リバーダルスの声に反応したハルが、寸でのところでラビッタの攻撃を交わし、自身の剣で応戦する。
ハルは怒っていた。
自分を守って倒れたジュリアスは、ハルが声をかけなければそのような事態にはなっていなかったはずだ。
(僕に攻撃魔法が使えたなら……)
唐突に体が熱くなったハルは、後悔と怒りでやり切れない気持ちを剣に込め、向かって来た憎き魔物へ打ち込もうとした瞬間、空が光り雷鳴を響かせながら矢のような速さで稲妻が落ちた。
グエエエエア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!
稲妻が落ちた先では何体かのラビッタが瞬時に焼け焦げて、異様な鳴き声を上げながら薄闇へと消えていった。
「ハル!今のが攻撃魔法だよ!その調子で退治していこう」
セルディの励ましとリバーダルスの強い頷きを見て、自分が遂に攻撃魔法を会得したと確信したハルは、敵の群衆へ向かって剣を撃ちまくった。
ハルの剣はまるで意思を持ったかのように振り乱れ、その動きに合わせて稲妻が現れると敵に突き刺さっては滅亡へと誘う。
「いいぞハル!」
「団長!しかしこれではキリがありません!魔力を消耗する人も出てくると思います!」
「何か策でも有るなら言ってくれ」
そこで敵を上手く追い込んで一箇所に集めて欲しいとハルが告げると、その先を聞く前に魔法騎士達が行動を起こしてくれる。
火魔法の得意なリバーダルスは炎の矢の連打で、風魔法の得意なセルディは幾つもの竜巻を起こして、多数のラビッタを両サイドから攻め込み始めた。
その間テッドの兄でもあるアルミンは、得意な結界魔法を皆に張ると敵の攻撃から守り続け、クリスが水魔法でラビッタの体を濡らして弱らせていく。
ヘンリーは地面を振動させて敵の足元を狙い、相手の体勢を崩していった。
一致団結した見事なチームプレーでラビッタを追い込み、集合して巨大な塊になるのを確認すると、ハルが大声で叫んだ。
「皆一斉に攻撃をやめて自身に結界を張ってください!」
「おう!思いっきりやれ!」
リバーダルスの言葉を合図に皆が結界を張り、それぞれの身の安全の為に魔力を注いで強化をすると、ハルが両手を上げて天に向かって叫んだ。
「巨大な落雷!稲妻よ!矢となり刃となってラビッタに突き刺され!そして全てを焼き殺せ!」
夕闇の空に閃光が走り薄暗い景色が白夜のように明るくなると、轟音が唸りを上げながら無数の稲妻が爆速で落ちて行き、魔物の塊へと直撃する。
グエエエエア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!
ギィィ工工工エエエエエエェェェェェ!!!
攻撃を受けたラビッタは焼き焦げる匂いを発すると、断末魔の叫びを上げて一面にパチパチと電光を走らせながら消滅していった。
「「「ハル!」」」
「良くやった!ハル!」
それぞれ結界を解いた特別騎士団の仲間達が、ハルの壮大な攻撃魔法に興奮した状態で、口々に賛美の言葉を送ろうと駆け寄ってくる。
「僕、僕やりましたーーオロロロロロ……」
「うわあ!ハル大丈夫?」
撃退した安心感と生まれて初めての殺生、それと自分が倒した敵の死にゆく様を思い出し、まだ微かに残る焼き焦げた匂いに耐えられなくなったハルは、その場で胃の中のものを吐き出してしまった。
クリスが水魔法で口元を綺麗に拭うと、ヘロヘロになったハルは腰が砕けて崩れそうになり、慌てたリバーダルスに支えられている。
そこにヘンリーも駆け寄ってきて、簡潔に状況説明をする為、腹に力を入れて声を張った。
「団長!敵は全滅!第一騎士団は既に撤退しております!」
土魔法で大地に魔力を張り巡らせて敵の消息を探っていたヘンリーは、念の為、明日もう一度数名の騎士と共にラビッタのタマゴが残っていないか確認するようにと指示を受けた。
「では我々も砦に戻る。騎士塔には怪我人も多くいる。出来るだけ手当の応援を頼みたい」
「はい!ハルのおかげで体力消耗も魔力切れも起こさずに済みましたからね。僕達も出来る限り手当に当たります」
リバーダルスの願いに快諾したセルディの言葉を筆頭に、その場にいた魔法騎士達は救護班への参加を表明した。
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