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背負う必要のない背徳
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帝斗から妃羅へと移した視線。
瞳に映った妃羅は、目の前にある身体から、心だけが消えてしまったかのようだった。
偽物でも、番を失った喪失感に、妃羅が居なくなった気がした。
精気の、光のない妃羅の瞳。
代わりに、泣いた。
私の瞳から、ぼろぼろと涙が零れ落ちていった。
抱き締め、温めてあげたい。
妃羅の心を、私のこの手で、この器の中に呼び戻したい。
妃羅の総てを、この手の中に収めてしまいたい。
今すぐにでも、番にしてしまいたい……。
欲求だけが膨れ上がっていった。
でも。
ひび割れた妃羅の心を、頸に立てる私の牙が、噛み砕いてしまいそうな気がして、……出来なかった。
「ぅ………」
最初に蹴飛ばして沈めた男が、呻き声を上げた。
その音に、瞳を向けた。
妃羅を触ったその手も。
妃羅を舐めたその舌も。
妃羅を嗅いだその鼻も。
妃羅を眺めたその瞳も。
総てを削ぎ落として、やりたかった。
「帝斗。ナイフ、貸して……」
こいつなら、殺したって問題ない。
男を睨みつけたまま、手だけを帝斗に向け、差し出した。
「お前が汚れる必要はない」
淡々と紡がれる音に、苛立ちが溢れる瞳を帝斗へと向ける。
座り込む妃羅にジャケットを掛け直しながら、帝斗は涼しい顔で、言葉を繋いだ。
「俺なら、人間の1人や2人 、殺ったところでなんとも思わない」
魂が抜けてしまったような妃羅を片手で抱き寄せ、話し続けた。
「でも、お前は違う。今、怒りのままにそいつを殺したら、お前は苛まれる。罪悪感や背徳感に苛まれ、自分を責めるだろうし、妃羅をも嫌いになるかもしれない」
胸に抱いた妃羅の髪を柔らかく撫でながら、私の心配をしていた。
「そんなこと……っ」
有るわけがない。
妃羅を傷つけた人間を、放っておく方が、余程、心残りだ。
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