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間違い 16
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ピピッと車の鍵を閉めて家に戻る。
エレベーターの中でもミケは一言も喋らなかった。
点滅するライトの明かりの廊下を歩いた。
ちらりと顔色を窺うがミケは俯いていて感情は読み取れなかった。
鍵を開けて中に入る。
扉を押さえてミケが入るのを待つがミケは一向にドアの前から動こうとしなかった。
俺は何も声はかけずにミケの手を引いてひとまずミケを家の中に入れる。
されるがままのミケ
こうも動かないと俺もどうしたらいいか少し悩む
俺は靴を脱いで部屋に入りミケに向き直った。
「ミケ、」
「っ」
ピクリ、肩が揺れた
「おかえり」
「…!」
両手を広げてミケを見ると
ガバッ、
抱き着いてきたミケを受け止める。
ぱっと一瞬だけ見えた顔は迷子になった子どもみたいだった。
、
ベッドに二人で横になる。
後ろからミケを抱きしめてその温もりを感じた。
ミケだ。
ミケがまた俺の腕の中にいる。
たった一日だってこんなにも心が乱された。
俺はもう相当重症らしい
もぞもぞと腕の中のミケが動く
風呂上がりでまだ少し湿った髪の毛が顔にあたって擽ったい
俺の指を弄っていたミケが小さく呟いた。
「ニシナさん、シよ」
「…シない」
俺はキッパリと断った。
ミケは焦ったような声を出して
「っ、なんでっ」
焦る、と言うよりは泣きそうな、の方が正しいか
「シたらミケは泣くでしょ」
「、」
「訳わかんなくなってるミケも可愛いけどたまにはちゃんと甘やかさせてくれ」
今はそれに頼っちゃダメだと思った。
きっとここでそれをしてしまったらミケはもっと自分の心を隠してしまう気がしたから
「うぅ〜」
「今泣いたら意味ないだろ」
いつもの様子からでは想像つかないくらい情けなく、子供みたいに声を漏らすミケ
もっともっとそういうところを見せてくれればいいのに
「全部ニシナさんのせいだからっ」
「そうだな」
「ばかっ」
「ああ」
「絶倫っ」
「そんなことないだろ」
「お人好しっ」
「ミケ、」
ミケの言葉一つ一つを零さないよう拾っていく
ミケは初めてあった頃から感情表現が豊かだなとは思っていたけれど
こういった、俺が本当に見せて欲しかったものを見せてくれるようになったのは最近だ。
「あほっ」
「…ミケ」
名前を呼ぶ。
これは俺達の合言葉みたいなもの
「…すき」
「ああ、俺も」
聞き取れないんじゃないかってくらい小さい声も拾う
それが大切なものだと分かっているから。
「やだっ、ちゃんと言って」
どうしてか今日のミケはいつもよりほんと少しだけ我儘みたいだ。
こんなもの我儘にも入らないけれどいつものミケからしたらこれは、甘えで我儘なんだ。
「ミケがすき」
「っ、」
息を呑む音がする。
噛み締めるみたいな、俺の言葉を一つ一つ聞き逃さないように必死に聞いてる。
ああ、これが愛しいって感情なのかもな
「俺はミケが好きだよ」
「俺の方が、好きだもん」
「そうか」
「そうだよっ」
「じゃあ俺は直ぐにお前を追い越すよ」
子供みたいな言い合いにも満たない言い合い
おかしいな、俺の方が先に好きになったのにミケが俺よりも好きなんて
それも悪い気はしないのだから仕方ない
「ニシナさん、」
ミケが甘えるように俺を呼ぶ。
そんな声を聞けばなんでも願いを叶えたくなってしまう。
「ん、なに。」
「そっち、向きたい…」
「ん」
腕の力を緩めるとミケがまたもぞもぞと動く
オレンジ色が掠めてくすぐったい
同じシャンプーだのなんだのを使ってるのにどうしてミケの匂いは俺とは違うんだろう
甘い匂いなんて苦手なはずなのに、ミケのは特別だ。
特別に甘くて特別に好きな匂い
ミケは俺の首元に鼻を寄せてスンスンと鳴らす。
「こら、あんまりそういうことしない」
「なんで?俺、ニシナさんの匂い好き」
「……そう」
「うん、落ち着く」
俺はこのまま一生ミケの虜なんだろう
なんて思ったけれど、俺たちから一生なんて言葉は一番遠い言葉だ。
だって、俺達が一緒にいられる時間はあと半年もないんだから
「ねえ、ニシナさん…」
「なに」
「俺が嘘つきだったら嫌いになる…?」
きゅ、と腹辺りの服を引かれる感覚がする。
控えめなそれがミケには似合わなくて少し笑ってしまいそうになる。
「無理なんじゃないかな」
「え?」
「俺にミケを嫌いになることはできないと思うよ」
ミケが嘘つきだろうとなんだろうと
俺を騙していたって、俺を本当はなんとも思っていなかったりしても
それこそ何かの指名手配犯とかそういうのだったとしても
多分俺はそれでもミケを嫌いになることはできない
これは確定事項ではないけれど、予感だ。
そういうものなんだ。
そういうふうに出来てるってやつ
ただ、何となくそう思うよ。
「俺、ニシナさんに言わなきゃいけないこと…ある」
「うん」
「でも、まだ待って…まだ、俺の、準備が出来てない、からっ」
震えたミケの声
準備…ね
その先を聞かなくたってわかる。
ミケが言う準備っていうのはきっと
「だから、まだ、待っててっ…」
「……あぁ。」
きっと、サヨナラの準備だ。
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