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十話
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どうして俺はこんなに傷ついてるのだろうか。
九条に嫌いだと告げたのは自分自身なのに。そんなことを思いながら重い足取りで家への帰路に着いていた。胸の奥がじくじくと傷んだ。出来かけたカサブタを剥がしているような、そんな感覚。
酷いことを、言った。傷つけた。
でもこれが一番いい方法なのだ。俺には関わらない方がいい。だって俺は・・・
「とりあえず家帰ったら寝よう」
暗く淀んでいく思考を無理やり引きずり出して捨てた。考えても未来も・・・過去も変わらないのだ。何も。
マンションに着くと俺は制服のままでベッドに沈む。もう寝てしまおうか。でも、そしたら嫌でも明日が来る。きっと九条は明日も俺の傍にいるのだろう。諦めない、そう告げた九条の瞳は強い意志を秘めていた。
「・・・ねよ」
明日は嫌でも来る。でもそれももう少しで終わるから。
*
「くっそ・・・ついてねぇ」
次の日、俺はあいつを探して校内を歩いていたら、道端の不良に絡まれた。売られた喧嘩に勝ったのはいいのだが、また絡まれるのも面倒なので保険室で暇を潰すことにした。保険室の前まで来ると少しドアが空いていた。先客かと思いドアに手をかけようとした時、話し声が聞こえた。
「龍城くん、あんまり無理をしてはだめよ」
養護教諭の声だった。龍城というあいつの名前に思わずドアにかけてあった手が止まった。
「大丈夫です。最近は薬のおかげで調子もいいし」
「無理は禁物なのよ。だいたいなんのために体育を見学してると思ってるの。校内を走り回ってたら意味がないでしょ?」
「それは、」
薬?最近は調子がいい?なんだか不穏な言葉に背筋が伸びた。
「いいんですよ、先生」
「龍城く、」
「俺は長くてもあと一年しか生きることができないんですから」
・・・俺は固まった。長くても一年しか生きることができない?
体が鉛のように重くなった。動けない。
長くても一年ということは、つまりあいつは、
その時だった。ドアが開いた。驚いたような顔であいつが俺を見上げる。
俺は上手く状況が、整理できてなかった。
「・・・九条、どうしたの」
あいつはなんでもなかったように俺に話をかけてきた。
まるで先程の会話が嘘のような平坦な言葉だった。
「お前、死ぬ、のか」
かろうじて出た声は震えていた。カタコトの言葉だった。
「聞こえてたの」
あいつの瞳が揺らぐ。俺は何も言えなかった。それ肯定だと見たあいつは張り付いた人形の様な笑顔でこういった。
「そうだよ。俺は死ぬ。もうあと一年も生きられないんだ」
まるでそれが、当然のように、当たり前のように俺に告げた。もう諦めたような笑顔で。
俺は思わずあいつの肩を掴んで、こういった。
「なに笑ってんだよ!?死ぬんだぞ!?」
廊下に響く俺の声。声を張り上げる俺とは対照的にあいつは静かに俺をみていた。
そして、
「九条、人間なんていつか死ぬんだよ。それが、俺の場合、時間が目に見えて決まってるだけだ」
「そんなこときいてんじゃねぇよ!!!!」
「もう疲れたんだよ。生きることとか全部、身体よりも心が限界なんだ」
「・・・っ」
「もう、なんのために生きてるかわからないんだ、だから、」
俺は思わず目の前のあいつを抱きしめた。
もう聞きたくなかった。全部聞いたら、俺がおかしくなりそうだったからだ。
生きるのがもう嫌だなんて、聞きたくなかった。何より、
あいつが、消えてしまいそうだったから。
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