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リアル
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「程なくして『陽炎』が出版されていますが、話題にはなったものの、やはり、大御所の作家に比べると売り上げが続かなかったと言われて居ますね」
「さっきも言ってたけど、その、カゲロウと、ジンは結局何の関係があるんだ?」
「その筋の人では無いので、本当かどうかすら怪しい噂程度のことしかわかりませんが……少なくとも、彼女の件はそこから始まったと言われて居ます」
陽炎は、編集者の知人のいわゆるコネを通じて出されたもの。
大々的に売り出したものの、売り上げが続く程突出しているわけでは無かったので一度表から消えている。(ように言われているが、消えるという表現は本人の意としないかもしれない。本屋に並べて貰えるような本、あるいは本そのものを出していないときに、『死んだのか?』と思われる経験に傷つき、未だに引きずっていることをインタビューで答えているらしい)
陽炎に特別な思い入れがあるのか、それからずっと、陽炎をテーマにした内容に拘っていた。
「はっきりとはわかりませんが、承認欲求の強い方だったそうなので、
自分の物語そのものだけでは、相手にされない、とどこか思ったのでしょう。同時期に『ブログにものめり込んで』居る。
当時はあらゆる意味でそういったものが流行っていましたが……
『リアル』が必要だったのだと思います。『誰もが自分を特別に見てくれるような』リアルが」
(2022年8月5日20時59分)
「これは、『うち』の仕事柄、その筋の人から聞いた話ですけれど、だんだんと、おかしくなっていたようです。
当時ブログが流行っていた時代に、ある女性の出版予定原稿を奪い、
『それは俺! 俺が実は妹の名前で出版しちゃった!』
と言って、取り下げさせたりなどもしています。
特別になりそうなものは、何でもやってみるということなのでしょうか?
とにかく、目立ちそうなもの、特別そうなものを、こっそり持ち帰る、次こそは売れるから、と泣きつくのが癖になってしまったとか。
彼がゲームの、特殊能力を持つ主人公に影響されてつけている(と語っている名前)が、ジンなのです」
「それだけだと、よくある話だね」
「ただの小学生が、コネだけで本が作れると思いますか?」
「自費出版じゃない?」
「……名前を言うと消されると噂されている、裏社会の人物関係だとも話題になったのですが、さすがに知らないですよね」
「『俺が妹の名前で~』で取り下げられた妹、のほうはどうしたの?」
「…………」
皋(さつき)さんが黙る。
数秒、呼吸を置いてから、彼は教えてくれた。
「ブログに、コメントを大量に書き込まれて、女子高生が自殺したと報道された事件があったのですよ。西尾市辺りでしたかな?」
皋さんの横に座って居た、彼よりは若い男性がやや赤ら顔でこちらを向く。
「暴言以外に、特定だとか、つきまといだとか……いろいろと言われて居ますが、投稿された場所が複数で固まって居たりと、企業絡みの気配があるそうですよ」
企業が取り囲んで、特定して、付き纏って居たのだとしたら、確実に圧力をかけている。
「彼の『勘違い』という嘘で、突然出版が中止、関連の情報も非公開になったのです」
皋さんの隣に座っていた人が、更に口を挟んでくる。
興味をそそられたのだろうか。
短めの髪以上に短く剃られた髭が、チクチクと尖り、なんだか痛そうだった。
「あの、此処から先は、もっと曖昧な話になってしまうのですけど、『あの話』ですよね?」
「はい?」
「ほら、あの『ジンの』」
「え、えぇ……」
「あれね、ブログにもいろいろと御座いますでしょ。その事件の報道の後――――しばらくしてから。『彼女』が投稿をしていた、DTMと呼ばれるジャンルがあったんですよ……今はそこは残って居ないのですけど、
その後なんとか、っていう権利団体が今よりももっと横暴を利かせて衰退したとかしないとかって」
「…………」
「それと合わせて、よく、歌を上げていたんです」
そこから聞いたことを、どこまで話しても良いのだろうかと、
それこそ、しばらく逡巡した。
「その後、ですね、『女子高生』が自殺したこととか、DTM絡みで問題があって、『彼女』のほうも歌もやめちゃって……そのくらいから、『ジン』というアーティストが現れた。
『女性の声』で、ギターを持って歌うジンは一躍時の人になりました」
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