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美しき演奏者
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黒のタキシードに身を包み、ヴァイオリンにて柔らかくも力強い音色を奏でる若干17歳の若き演奏者に会場中の人間は皆、その美しい容姿と音色の虜になっていた。
ヴェートーベン ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調 作品24 スプリング。
幸福感に満たされる柔らかなこの曲は演奏者がこよなく愛する曲でもあり、練習にも力を入れていた分、リラックスしながら演奏に試みているからなのか、表情も明るく豊かなものとなり、より一層魅力的な作品へと化していた。
彼の名は結城 由良(ゆうき ゆら)。
音楽一家の次男坊で、生まれた時から音楽に包まれた生活をしてきた。
父は有名指揮者で母は有名ピアニスト。
兄はチェロを弾き、彼はヴァイオリンを手に取った。
亜麻色の柔らかな髪と瞳、華奢な身体で儚げな容姿は憂いを合わせ持ち、見る人の心を揺さぶる魅力を携えていた。
そんな彼から放たれる音もまた魅力の一つで、実力のある演奏者としてメディアによく取り上げられている。
曲も終盤に差し掛かり、ヴァイオリンを握る手に力が篭る。
楽しくも緊張感に包まれるこの時間を心身共に愉しむことの出来る由良は生粋の音楽家だ。
大量のスポットライトを浴び、力一杯弾くことで額から汗が流れ落ち、頬を伝う。
曲が終わり周りが一瞬、静寂に包まれる。
由良はヴァイオリンを身体から離すと、同時に客席を一望した。
その瞬間、ドッ沸き起こる歓声と大きな拍手に安堵と共に訪れる笑みと幸福感を噛み締め、一礼し、ステージの脇へと去った。
ステージ脇に用意されたパイプ椅子に愛用のヴァイオリンを抱きしめ、まだ消えぬ観客席からの拍手の音に自分の演奏をやり終えた満足感と達成感を胸に刻み、成功した事を再確認する。
この拍手の音が消えぬ限り、彼はこの場からは決して離れない。
これが彼のコンサートでのルーティーンだ。
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