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* Scent.2 *
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不愉快と表現するには少し違う、面白くないようなざらついた気持ちになる。
名前さえ分からない厄介な感情を抱えたまま、涼風の顔を直視出来なくて、立花は目線を下げた。
胸元のネームホルダーに入っている学生証には、「涼風 郁[イク]」という名前が記されている。
「下の名前。何て読むんですか?」
初見の漢字について尋ねると、涼風は自身のネームホルダーを指でなぞりつつ、読み方を教えてくれた。
綺麗な響きに、きっと素敵な意味が込められているのだと思う。
「立花君から話してくれたの、初めてだね」
「そうですか……? いろいろ話してると思います」
「俺が聞き出してるからだよ」
くす、と涼風が笑むと、立花もふっと緊張をほどくようにして笑った。
──そっか。初めて僕から話したんだ。
心の内側から綻んで、少し得意気な気分になる。
もっと話していたい、と思うと、テイクアウトの商品を用意する手の動きはつい緩慢になってしまう。
スティックシュガーとミルクを一緒につけようとして、いつも断っていることを思い出し、ブラックをそのまま渡した。
立花もたまにお金を払ってここのコーヒーを飲んでいるけれど、甘味をつけないととても飲めない。
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