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09 甘くない桃1
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季節の変わり目。
本格的に梅雨がやってきて、天候は安定しなかった。
湿気が多いので、身体がだるい感じがする。
気温の変動も激しいせいか、体調を崩す職員が多く、星音堂でも風邪が流行っていていた。
数日前から、体調不良で吉田と氏家がお休みをしている。
出勤してきている尾形も咳が止まらず具合が悪そうで、とても遅番が出来る状態ではなかった。
そういう状態なので、稼動しているのは、蒼と星野と高田くらいなものだ。
水野谷は、会議会議で不在が多いのであてにはならない。
シフトは大幅に変更され、遅番は連日のように続いていた。
通常であれば日勤だけの水野谷までも、明日は遅番をやると言っていた。
本当だったら、真っ先にダウンしそうな蒼だけど。
今回は、なんとか乗り切っている。
関口がいて、ちゃんとご飯を作って食べるようになったせいかもしれない。
今までだったら、こんな遅番の日は、お弁当すら食べないで寝てしまうことが多かった。
遅番を終えて帰宅すると、時間は22時を回る。
そんな遅い時間に、夕食なんて食べる気も起きないので、ろくに食事をせずに、晩酌なんかして眠ってしまうのがいつものことだった。
食事をする時間よりも、寝る時間が欲しい。
疲れ切っている20代である。
「ただいまー……」
今日も遅番。
ふらふらになって帰宅する。
本当だったら、蒼が遅番のときは、関口が夕食を作る番なのだ。
しかし。
今日は、帰宅すると真っ暗だった。
そっか。
「今日も練習かあ……」
ベッドの上に横になって、ため息を吐く。
関口は、コンクールに備えて、毎日猛練習をしているようだ。
東京のオケ練習も市民オケも休んで、コンクールのことだけをやっているらしかった。
月曜日もなにも休みはない。
毎日のように、朝から夜中まで練習を行っているみたいだった。
蒼には、分からない。
彼が、どういうことになっているのか。
ただ。
言えることは、二人が顔を合わせる機会が極端に少なくなっていること。
関口が帰ってくる頃、蒼は夢の中。
蒼が出勤する頃、関口は夢の中だ。
「ま、仕方ないよねえ」
ごろんと転がって仰向けになり、目を閉じる。
疲れを取ろうとして行う行為だけど、浮かんでくるのは関口のことばかり。
なんだか変な感じがした。
嵐のようにやってきた同居人。
いつの間にか、蒼の中での存在は大きくなっていた。
おかしくなってしまう。
最初に関口が一緒に住むと言い出した時は、どうなることかと思った。
でも、馴染んでしまったらしい。
彼がいないと少し寂しく感じられるなんて。
しばらくじっとしていてから、このままいても仕方がないと思い直し、身体を起こす。
のそのそと起き出して、ネクタイを緩めながら、冷蔵庫を開ける。
買い物に行く気にもならないし。
関口は、柴田家でご馳走になってくることが多いし。
今日も忙しくて昼食は15時くらいだった。
大してお腹も減っていない。
結局は、食べたいものが思い浮かばない。
諦めた。
「お風呂に入ろうかな?」
大きくため息を吐いて、部屋に戻ろうとしたその時。
玄関のチャイムが鳴った。
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