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09 甘くない桃3
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「いい身分ね。ずいぶん可愛い子を囲ってんじゃないの」
「囲うって……。お前なあ。相変わらず口が悪いんだけど」
関口は苦笑して、彼女の目の前に座る。
やっぱり親しい間柄のようだ。
蒼は、二人を交互に見て困った顔をする。
蒼の様子を見て、関口は眉間にしわを寄せた。
「大丈夫か?いじめられたのか」
「そんなことは……」と、言いかけた蒼の言葉をさえぎる形で、桃は話を進める。
「いじめてなんかないよ。あんたの何なのか聞いていただけ」
「何なのかって……」
彼だって聞かれると困ることだ。
同居人。
それが適当な言葉だろう。
関口は、改めて座りなおして彼女を見つめる。
桃と呼ばれた女性は、蒼より背が高い。
長身の二人の間で、蒼はおどおどするばかりだった。
お茶を入れ、二人の邪魔をしないようにこそっと部屋の隅に座る。
「それより、なによ!いきなり10年ぶりにメールを寄越したと思ったら。コンクールの伴奏ですって?あしは一生あんたの伴奏はしないって言ったはずでしょう?」
10年ぶり……?
随分、古い友人なのだろう。
「あんたはあたしがやってやるって言っていた演奏会で別な女に伴奏をやらせたんだからね!」
「あれは……」
「あたしがあんたの伴奏をするのは、あれが最後の機会だったんだから。だから最高の演奏にしようって一生懸命練習していたのに」
なんの話なのか全く分からないが。
まとめてみると、関口が東京に引っ越す前、最後の演奏会の伴奏を彼女が行う予定だった。
それが関口の都合で、別な人に変わった。
そういったところだろうか。
彼女は、関口の伴奏をすることを楽しみにしていたようだ。
怒っている様子を見ると、随分と傷ついていると言ったところか。
そんな桃の前で、関口は黙っているだけ。
蒼は、関口の横顔を見つめる。
彼はそんな人だろうか?
いや。
そんなことはないはずだ。
一緒に住んでみてもよく分かる。
確かに。
我儘で意地悪なところはあるけど。
照れ隠し。
そんな気がしてならない。
だから、関口がそんなひねくれた嫌がらせをするわけがない。
なんらかの事情があったに違いないのだ。
「なんとか言ったらどうなの?まあ、今更。言い訳をされても困るんだけど」
「桃。言い訳をする気はないけど……」
「言い訳!?」
桃が声を上げた瞬間。
蒼の声が室内に響く。
「あの!」
大きな声に二人は動きを止め、蒼を注視した。
「蒼……?」
「関口は、いいやつで」
二人の事情に首を突っ込む筋合いはないけど、なんだか彼が誤解されてしまっているのが嫌だった。
「なにか事情があるんだと思います。きっと……。関口はそんな薄情なことをする人じゃないもの」
興奮してしまっているのか必死だった。
一生懸命に桃に訴える。
「蒼……」
一生懸命に自分のことをかばってくれる蒼に苦笑してしまう。
にこにこして蒼を見る。
せっかく弁明しているのに……。
笑われるなんて。
蒼は瞬きをして関口を見る。
「なんなのよ?この子」
突然の乱入に桃も困惑していた。
「いや。その。だから関口は、いいやつで……」
興奮してしまっていたのでなにを喋っているのか自分でもわからない。
何度も同じ言葉を繰り返す。
「関口は……」
「もういいよ。蒼」
関口は笑顔で蒼の腕を掴まえる。
彼はなんだか恥ずかしそうにしていた。
「あの、おれ……」
やってしまった……。
そんなつもりじゃなかったんだけど……。
もう後の祭りである。
俯いてしょんぼりする。
「ありがとう。蒼」
桃は大きくため息を吐いて表情を緩める。
「知ってるわよ。圭がどんな男かなんて」
「え?」
彼女は肩を竦める。
「あたしはあんたに心配される義理はないんだからね」
「桃……」
「どういうことなの?」
事情が分からないので蒼は二人の顔を交互に見つめる。
桃は苦笑して事情を説明してくれた。
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