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28 新星現る16
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エレベーターの中でも蒼は挙動不審だった。
なにやら訳の分からない単語を並べて演奏会の感想を話している様子だ。
ショルには意味不明だ。
だけど。
『どうだった?蒼?』
いつも顔色の悪そうだった頬は赤くなっている。
『最高だった!力強くて、胸にずしんと錘がのっかったみたいな……』
呼吸もままならない蒼。
ショルは上着を脱ぎ、シャツのボタンを緩める。
燕尾服は窮屈だ。
ほっとするひと時。
『まあまあ。蒼。落ち着いて』
彼をなだめるように言ってはいるものの、ショルティ自身も舞い上がってしまっている。
ショルティにとって、一般の評判や客からの喝采よりもなによりも、この蒼からの絶賛ほど嬉しいものはなかったからだ。
いつもは、もこもこしてなにを言いたいのかよく分からないけど、今の彼はショルの音楽に対して、なんとか感動を伝えようと身体いっぱいで表現してくれる。
こんなファンが側にいてくれたら、音楽をやる楽しみをすごく感じられることだろう。
ふと関口が羨ましく思われた。
『曲のことは、よく分からないんだけど、なんだかこう、月が浮かぶ湖畔にいる感じがしたかと思うとさ……』
一人で語っている蒼にコップを渡す。
『蒼、ゆっくりしてから、落ち着いて話そう。ね?キミの話。ちゃんと聞きたい』
ショルティの意見に言葉を止め、そしてコップの液体を一気に飲む。
『いい、飲みっぷりだね』
『あれ……?』
一気に飲んでしまったら、顔がますます赤くなった。
『これ』
蒼は、空になったコップに視線を落とした。
『有田が買ってきてくれてね。日本のお酒なんだって』
ショルティはそういいながら数種類の一升瓶を持ってきた。
『どれも美味しいね。日本酒っていいよね』
一気飲みで少しいい気分になってしまった蒼は、お酒を見比べる。
『これは甘すぎるんだよ』
『そうなの?みんな同じ?』
『違うよ。こっちのほうが美味しいよ』
珍しい酒発見。
新潟の地酒。
前から、一度飲んでみたいと思っていたものだった。
これは、少しでもいいから飲んでみたい。
どうしても飲みたくて、ショルティを見つめる。
おねだり。
蒼のアイコンタクトなんてあんまり通用しない相手だけど、初めて理解してくれたらしい。
彼は封を切って蒼のコップに酒を注いだ。
『蒼は詳しいんだね』
『日本酒大好きだもん!』
にこにこしている蒼。
初めて?
初めてかも知れない。
今日、ここに来てからの蒼は緊張しているせいもあって、不安げな顔や困った顔しか見せていなかった。
笑顔の蒼。
あの写真の顔と一緒だった。
ショルティは『おいしい!』と酒を飲む蒼を見つめて微笑む。
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