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47.ATTO PRIMO3
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ふと顔を上げると拍手が聞こえた。
終わった。
こうしてみるとあっと言う間。
気が抜けてしまう。
関口とミハエルは拍手と共にステージを降りた。
一次ステージが終わったのだ。
途中、テンポが転がりそうになったけど、ミハエルが押さえてくれたからなんとか繋がった。
ホワイエに出てみると、桜が待っていた。
『お疲れ。ミハエルもありがとう』
『すみません。ミハエル。おれ、ちょっと焦っちゃって』
『いいって。あんなのはミスにもならないよ。立て直しできたんだから上出来さ。桜の初コンクールなんて最悪で……』
そこまで言うと、横から蹴りが入る。
『ぐふ!』
『余計なことは言わんでいい』
『すまん……』
二人のやり取りは、ほほえましい。
野木が見たらヤキモチ焼いてしまうだろうな。
『ともかく。安全圏内にはいると思うけど。後の演奏次第だね。神のみぞ知るだな』
『はあ』
全く慰めになっていない。
がっくりうなだれていると、数名の女性が寄ってきた。
『すみません』
『ちょっといいですか?』
「はあ?」
『私たち、あなたの演奏に感激しました。えっと、そこの音楽学校の生徒なんですけど』
『もしよかったらサインをください』
「へ?」
サインなんて書いたことない。
おどおどしてしまう。
桜はニヤニヤしていた。
『あ、っと。おれ、そういうの苦手で』
『お願いします!絶対に二次に進めると思います!あたしたちもお祈りしていますから』
『はあ』
仕方ない。
なにがなんだか分からないけど、漢字で自分の名前を差し出されたヴァイオリンの教本に書く。
漢字なんて珍しいんだろう。
二人はきゃっきゃっ喜んで走っていった。
「はあ」
「蒼に言いつけてやろう」
サインを求められたのは初めてなので緊張をしている反面、照れくさい気持ちで嬉しい関口の様子を隣で見ていた桜は意地悪そうに笑う。
「桜さん!」
「蒼、心配で夜も眠れないだろうな~」
「だから!」
からかわれている。
面白くなくてむっとする。
ミハエルも笑顔だ。
『蒼って?』
『関口の恋人だよ』
『関口に恋人いるの?』
ひょえ~っとビックリしているミハエル。
『そこ!ビックリするとこじゃない!』
なんで外人に突っ込みなんか入れなくちゃならないのだ。
蒼の話なんかしたから蒼が恋しい。
だけど。
決めたのだ。
ファイナル戦に残るまでは、蒼には連絡しないって。
心が弱くなっちゃうから。
蒼の声を聞いたら日本に飛んでいきたくなってしまう。
だから。
決めた。
じっと女の子たちの去っていった方向を見つめていると、背中を叩かれた。
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