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54.ATTO QUARTO4
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練習が終わり、客席に下りると、ピゼッティが手を叩いていた。
『圭、いいじゃん』
『ごめん。お前の時間まで延びてしまって』
『いいって。いいって。勉強になった。おれもこいつ以外と合わせるの苦手だからさ。なんか、ちょっぴりヒントもらった感じ』
にこにこしてブルーノを見る。
『素晴らしいと思う。ショルと息もぴったりだったし。さっきまでの喧嘩はなんだったんだろうね?』
『へ?』
ぎくっとなって二人を見る。
『あのさ。聞いてたの?』
『全部聞いてた』
『そうそう。二人の会話に出てきた「蒼」って誰?』
ブルーノの言葉に関口は吹き出す。
『な、なんでもないって』
『なんだ、なんだ~。なんだか痴話喧嘩じゃないのか~?』
二人にからかわれていると、ステージの上からショルティが降りてきた。
『痴話喧嘩ではない。これは男同士のプライドをかけた戦いだ!』
『ショル~!そう言うのは痴話喧嘩って言うんだぞ?』
『?』
ピゼッティの言葉にショルティは首をかしげた。
『二人は知り合いか?』
関口は二人を見る。
『知り合いってか。一緒にヴァイオリンを習った時期があったんだよな~?』
『ええ!ショルもヴァイオリンやってたの?』
『当たり前だ。指揮者たるもの、すべての楽器に精通してなければならないだろうが』
『そ、そうだよな』
だから細かい指示も出来たんだ。
『ショルは結構下手くそだったよな』
くふっと笑っているピゼッティを睨むショルティ。
『おい!そういうことを言うな。おれはまんべんなく知るためだけにやってるから、お前らみたいな腕前はいらんのだ』
『それ以前の問題だろう?キコキコ言ってたじゃん』
その事実を知って関口は爆笑した。
『まじで!?』
『笑うな!圭!本当に失礼な奴だな!!』
怒っている彼。
関口は『ごめん、ごめん』と手を振った。
『いやさ。ショルって本当に万能ですごいなって思ってたけどさ。なんだか、やっぱり人間だったんだな』
『悪かったな。おれだって普通の人間だ』
『すまん』
ぷいっとつまらなそうにそっぽ向いてしまうショルティ。
そんなに悪い奴ではないんだろうけど。
蒼のことでこじれたから仕方ない。
ま、こういうのもいいかと思う。
『で?で?蒼ってどんな子?可愛いのか?』
二人の様子をじっとみていたピゼッティがうずうずして聞く。
そんな彼をブルーノがたしなめた。
『そういうことは聞くもんじゃないよ!』
『だって……』
『蒼はすごく可愛いよ!』
黙っていた関口を押しのけて、ショルティが出てくる。
おいおい。
そこはお前が話すところじゃないだろうって思う関口。
しかし、ショルティは止まらない。
『蒼はねえ、小さくて、ちまっとしてて。猫みたいって言うか……』
身振り手振りで蒼を表現しているのか?
両手で感覚を取って小さいってことをアピールしている。
しかし。
蒼だって日本にいたらそんなに小さくない。
なんだか心外だなって思った。
『ショル!蒼はそんなに小さくないよ』
『そっか~?蒼は小さいよ』
『小さくない!ちょうどいい!おれにはしっくりくるんだ』
はっとした。
ニヤニヤしているイタリアン2人組み。
『ほほう。つまりは蒼って子。圭の恋人でショルが手を出してるってことなんだね?』
『手なんか出してないぞ!キスは手を出したことにはならないんだから』
『キス!?』
初耳だ。
関口はむ~っとしてショルティを見る。
『キスってなんだ、キスって!蒼にそんなことしたのか!この野郎!』
『いいじゃないか。キスくらい』
『よくないっつーの!』
きーっと怒って関口はショルティに掴みかかった。
『わわ!どうにかしてくれ!』
『どうにもなんないんだから!』
わ~!っと半泣きの関口をピゼッティとブルーノは抑えた。
『まあ、まあ。圭!蒼は圭のことが好きなんだろう?だったらいいじゃないか!』
『そうだよ~!きっと蒼は圭のことが好きだよ~!』
『わ~ん!』
『蒼はおれが頂く!』
『まだ言うか~!』
何がなんだか分からない。
強引にショルティから引き剥がされて、関口は連行される。
このままではピゼッティの練習が始まれない。
『はいはい。行こうね!』
ブルーノはにっこり笑顔を作り、関口を連行する。
小柄と言っても骨格が違う。
自分よりも少し小さい、彼に引きずられた。
『レオーネとショルは練習して。おれが連れてくから』
『すまん』
『バカ圭!本番でとちるなよ!』
『誰がとちるか!』
ずるずる引っ張られてホワイエに連れ出された関口を慰めながら、ブルーノは思う。
『音楽家って本当に手のかかるやつばっかりだ……』と。
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