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56.迷子の子2
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「ん?いや。できる限りは行こうかと思って」
「でも忙しくなるね」
「なにがなんだか分からない状態だからな。あっちもこっちも色々依頼されても困る。雑誌の件だって、なにがなんだか分からないし。本当に困ったもんだ」
「普通はどうしているんだろう。そういうの」
半分眠いけど、なんとか会話をする蒼。
そんな彼の様子なんてちっとも分かってないのか。
圭は天井を見上げながら一生懸命に説明をしてくれた。
「うちの父親を見てもらっても分かると思うけど、プロになるとマネージャーを着けるんだ。じゃないと、収録とか、演奏会の予定なんかは一人では組めないからね。あいつの場合は世界中を飛び回る仕事だから本当に大変だ」
「そっか」
そうか。
あの秘書さん。
有田。
マネージャーか。
蒼のことを迎えに来てくれたり。
ドイツまで一緒に着いてきてくれたり。
本当に圭一郎と一緒に過ごしているのだなって思った。
「圭にもそういう人、欲しくなるのかな……」
「おれはそんな大層な身分じゃない。まだ自分で出来ると思うんだけど……。だけど、今回ばかりはちとお手上げかも知れないな……って!蒼!聞いているのか?」
せっかく圭が説明しているのに。
もうすでに蒼は夢の中だ。
「本当に寝てばっかりなんだから」
圭は苦笑する。
すやすや気持ちよさそうな蒼。
彼を見ていると、自分は何も変わらないってことに気付かされて安心した。
コンクールの後、帰国してからの自分はどうなるかと正直、不安になったこともあったけど。
だけど蒼を見ているとほっとするのだ。
この場所も。
そこにいる蒼も。
コンクール前とは何も変わらないのだ。
先日、星音堂に挨拶に行った時もそうだった。
星野も吉田も、水野谷たちも。
誰も何一つ変わっていなかった。
これは当たり前のことなんだけど、本当に嬉しいことでもあった。
宮内にドイツのオーケストラの主席依頼を断ったことを話したらすごく怒られた。
バカだって。
だけど、ここを離れたくなくて、そうしたのだ。
ドイツに行けば、きっと新しい世界が広がっているに違いない。
だけど、ここでも出来ることってたくさんあると思うのだ。
桜の店も好きだし。
星音堂も好きだし。
まだ日本でもたくさんやれることってある。
自分はここで頑張りたい。
そう思ったから。
すっかり眠ってしまった蒼の頭を撫でて、思わず笑ってしまった。
「怒ってばっかりで悪いな。蒼……」
圭がイライラして八つ当たりしても、蒼は受け止めてくれる。
本当にありがたいことだと思った。
「さて。寝るか」
蒼の隣で布団にとっぷりもぐり、安眠の旅に出ようとしたその時。
アパートの呼び鈴が鳴った。
「なんだ?」
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