アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
59.春の受難11
-
下っ端は一番に出勤しないと。
星音堂に入ってからずっとしてきたこと。
いつも通りに出勤していくと玄関が開いていた。
「あれ?」
職員通用口を開いて中に入る。
春先のまだまだ寒い事務室内はほんわか温かかった。
こそっと事務室に顔を出す。
すると男が一人いた。
三浦だ。
彼はにこにこしてお湯の準備をしているところだった。
「あ!蒼ちゃん、おはようございます」
彼はふんふん鼻歌なんか歌っていたけど、蒼を見ると嬉しそうに走ってきた。
けだもと一緒だ。
「あ、あの。おはよう」
気まずい。
蒼は視線を伏せる。
「あれ~?大丈夫ですか?顔色悪いっすよ!」
大丈夫ではないけど、大丈夫。
頭はガンガンしていた。
「大丈夫。うん。大丈夫なの」
「本当ですか~?無理しないほうがいいっすよ。小さいんだから」
小さいは余計だ。
だけど、顔を上げると、三浦は心配そうに自分を見ていた。
なんだかびっくりしてしまった。
昨日、自分は結構ひどい態度を取ったのに。
どうして心配なんか……。
「ごめん」
「どうして謝るんです?」
「う、ううん。なんでもない」
「ならいいっすけど!蒼ちゃんはおれの先輩なんですから!おれに気を使わないでくださいよ」
星野にも言われた言葉。
蒼はぼんやり三浦を見つめる。
「あんまり気使われるのって苦手なんですよね~。あ、これ。お湯ってこれでいいんですか?昨日、朝の仕事内容は説明してもらいましたけど、実際にどれを使うかとかは聞いていなかったから」
「あ、えっと。うんと」
荷物をソファに置いてコートを脱ぐ。
「うん。そう。これでいいんだよ」
「よかった。んで、後の仕事ってなんっすかね?」
「昨日ちゃんと書いてあげたでしょう?」
文句まがいのことを言ってはっとしたが、彼は気にしていない様子だ。
「え~!そうでしたっけ?どこ行ったかな~……」
そう言いつつ自分の机の上をごそごそしている。
彼の机の上には、昨日渡した資料がたくさん載っていた。
ごちゃごちゃになっている資料。
よく見ると、所々に蛍光ペンで印がつけてある。
自宅に帰って読んできたらしかった。
「三浦」
「ってか、蒼ちゃん。本庁だと、こういう仕事って臨時の子とか、女の子がやってくれてるんですよ?なんでここには女の子がいないんですかね?男ばっかとかってありえないし」
ぶつぶつ文句を言いつつ、言われた仕事を行っている彼。
蒼はぼんやり見つめていた。
悪い奴じゃない。
悪い奴なんかじゃないんだ。
口が軽くてへらへらしているけど、ちゃんとやることはやってくれるんだ。
「ちょっと!聞いてます?あれ?大丈夫ですか?蒼ちゃん?」
「へ!?うん。大丈夫」
「そういう顔色で言われてもね~。おれ病弱は好みのタイプじゃないっす!」
好みとかの問題か。
蒼はむっとする。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
445 / 869