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61.関口家騒動10
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「おれはいやと言うほど見てきた。いつまでも迎えに来るはずもない父さんを持っている母親を」
言葉を失っている朱里を優しく見つめる。
「一人で頑張っている母親。いつまでも来るはずもない男を待つ母親。父親のいない子の辛さ。なんでも知っているつもりなんだけどね」
もう笑って話せる話題なのか?
それとも朱里のことを思ってなのか?
蒼は自然に笑顔になっている自分が分からなかった。
「一緒にね……」
ぽつんと言葉を落とす。
「一緒に三人で手を繋いで歩いてみたかったんだ。父さんと母さんと……」
そして自分。
ブランコをしてもらったり、肩車をしてもらったり。
三人で一緒に歩きたかった。
それは今でも心残りのこと。
栄一郎と結婚して、その夢は叶ったけど。
だけど、本当のお父さんとそういうことをしたかった。
「あたしだってそんなことをしてもらった覚えはない」
「朱里ちゃん」
「家の両親だってあたしや圭のことは放置だったから。両親が揃っていてもやってもらえない子だっているんだよ?」
それはそうだろうな。
だけど、関口家はニュアンスが違うと思う。
「あの人たちの愛情表現はおれにはわからないよ。だけど、お父さんもお母さんも朱里ちゃんや圭を愛していないわけじゃないと思う」
きっとすごく心配しているんだと思う。
圭一郎の圭に対する愛情は見て取れる。
それと同じで彼女に対してもそうなのではないだろうか?
あの変人で、常軌を逸した彼が「不倫」と言うことで怒り出すだろうか?
むしろ、「芸術家はなにごとも勉強だ!不倫?大いに結構!」とか言い出しそうなものである。
最初に聞いたときに感じた違和感はそれだ。
圭一郎が一般常識の範囲内で行動するなんて稀だからだ。
しかし、それはきっと彼女のことを心配している証拠なのだろう。
朱里が不幸にならないように。
彼女の人生が順風満帆でありますように。
そう願っているからこそ、不倫と言う恋愛形態が許せなかったのではないだろうか?
朱里は俯いたまま。
「あの人なら許してくれると思った。なんでも容認する人だから。それなのに、急に父親ぶって怒るから。あたしもビックリしちゃって……飛び出すつもりはなかったのに」
後悔しているのだろう。
きちんと話が出来なかったことを。
「大丈夫だよ。キミのお父さんじゃない。それはちょっぴり変な人だとは思うけど、まっすぐで正直な人だよ」
「変って」
彼女は笑う。
「ごめん」
「ううん。本当に変なんだもん」
娘にもそう思われているのだから救いようがない。
蒼も一緒になって笑ってしまう。
いつの間にか、彼女の膝の上で丸まって寝入っているけだも。
ごろごろと喉を鳴らしていた。
「猫は嘘をつかないって言ったけど。おれはお父さんもそうだと思う」
「え?」
「だって。お父さんってちょっぴり理解しがたいところもあるけど、何事にもまっすぐな人じゃない?」
「そうかも知れない」
圭もそうだから。
自分に嘘はつかない。
そして人にも。
「音楽家って生き物はみんなそうなのかなあ?それとも関口家がそうなのか?」
「関口家っていっしょくたんにしないでよ。バカ正直なのはお父さんとお兄ちゃんだけ」
吹き出す朱里。
初めてみた。
彼女の嬉しそうな笑顔。
最初に逢ったときもそう。
今日もそう。
険しい表情。
なにごとも拒否してしまうような顔だった。
だけど、今は違う。
少し年相応に見えた。
それに。
「お父さん」って。
「お兄ちゃん」?
圭が?
笑ってしまう。
いつまでも笑っていると、ふと携帯が鳴いた。
「圭だ……」
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