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66.スコア5
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蒼は圭の隣に立って夕飯の片付けを手伝う。
今日、明日は次の仕事のための準備期間で、自宅で練習をしていたのだ。
だから夕飯を圭が作ってくれた。
夕飯を作る手間がないと言うのは楽である。
二人でこうして時間を過ごすと言うのは久しぶりな気がした。
「新しい人はどうなの?おれも行ってみようかな?三浦って言うんだっけ?まだ会ってないし」
「え!」
それは困る。
「べ、別に大した人じゃないし。いいじゃん。会う必要はないよ」
「そっかな~。おれの星音堂なのにさ~」
「おれのって」
「蒼が来たときもきっちりチェックしたし」
「チェックって」
お皿を拭きながら蒼は苦笑する。
「なに?」
「なんでもないよ」
「変な蒼」
一通り笑ってから、ため息を吐く。
どうしよう?
星野の指令。
蒼にだって分かる。
彼が音楽をどれだけ大切に思っているのか。
そう考えると、彼の楽譜を持ち出すなんてとっても考えられない。
だけど。
三浦に自分たちのことがばれるのは嫌だった。
いずれはばれると思っている。
こうして圭も星音堂に馴染みの存在だし。
時間の問題だ。
だけど、やっぱり今はまだダメ。
蒼は首を横に振ってから圭を見上げる。
「ねえ。あのね」
「なに?」
流しを整理していた圭は水道を止めて蒼を見る。
「あのね。圭がいっつも睨めっこしている楽譜ってどんな風になっているの?」
「え?」
「いや。ほら。おれも楽譜見る機会が多いんだけど。みんないろいろ書き込んでいるんだけどね。なにを書いているのかちっとも見当がつかなくて」
「なんだ。蒼は生真面目だからな。別になにも書かなくたっていいんだよ」
「でも」
もじもじしている蒼がおかしい。
圭は苦笑して蒼の肩を引き寄せる。
「いいよ。おいで」
引越しをしてから、寝室は一緒だけど、それぞれの部屋はそれぞれの管理下にある。
圭が蒼の書斎にあまり立ち入らないように、彼もまた練習室に足を踏み入れる機会は少なかった。
木目の柔らかい壁。
防音になっているので窓はない。
左側の壁に備え付けられている棚に楽譜が並んでいる。
それから、部屋の中心にはグランドピアノ。
そして、譜面台。
シンプルなものだ。
「こっち、こっち」
手招きされて中に入る。
棚から何冊かの楽譜を取り出した圭は嬉しそうに見せてくれた。
「わ~。すごい。真っ黒じゃん」
「おれね。一つのことしか出来ないタイプだからねえ。こうして思いついたことを書いておかないと忘れちゃうわけ」
殴り書きのような書き込み。
それは馴染みの音楽記号だったり、英語みたいなものだったり、日本語だったり。
蒼には摩訶不思議な世界だ。
「すごいね。圭はこんなのをみながら演奏してるの?」
「見ながらって言うか。曲が出来上がってしまえば後は頭の中に入れるしかないかな?いつまでも楽譜に噛り付いていたのでは演奏の幅が広がらなくて」
「ふうん」
「これがベートーベンでしょう。あ、こっちは最初のコンクールで弾いたメンデルスゾーン」
音楽家の名前もカタカナ表記じゃないとなんだか意味が分からない。
こうして楽譜を眺めるのは面白いことだと思った。
それから圭は熱心に楽譜の読み方を説明してくれた。
記号もいろいろあって面白い。
「面白いね。楽譜って」
「だろう?おれはこれが好きで。学校の教科書読むより楽譜見ている時間が長かったな」
「そんな昔から?」
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