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69.別れ6
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「圭は10日くらい日本を離れるってさ」
起きだしてきてカウンターで食事を摂っていた蒼はぼんやりと視線を上げる。
「10日?」
「ほら。ゼスプリコンクールのガラコンサートだってさ。イギリス、イタリアを回ってくるって」
「……」
「大丈夫?」
「え?ええ。平気です。じゃあ、戻ろうかな」
表情も変えずに、側にいたけだもの頭を撫でる。
「蒼、あんた一人にならないほうがいいよ」
「でもいつまでもここにいる訳にはいきませんから。仕事にも、えっと。仕事」
そこで言葉を切る。
「仕事に戻れるのかな……」
ぽつんと呟く。
「もうなにも分からない子ねえ。なんのためにあたしが骨を折ってやったと思ってるのよ。大丈夫だから。明日から行きなさい。いい?」
「……桜さん」
「その代わりここから行きなさい。あたしがいいって言うまで一人にはさせないよ」
「……」
これでは以前のときの二の舞だ。
なんだか情けない。
箸を持ったまま、蒼はカウンターに額をつける。
「おれ、情けない」
「情けないって分かっているなら上出来だ。さっさと食べて寝ろ」
「……は~。……すみません」
「いいよ。けだももあんたも丸っと面倒みてやるさ」
桜は豪快に笑う。
「ささ。食べたら奥にいきな」
「……すみません」
しょんぼりしたまま蒼は店の奥に引きこもっていった。
「なんだからしくね~な。いつもお日様みたいなヤツなのに」
野木の言葉に桜は苦笑する。
「お日様だっていつも輝いていられるわけじゃないさ。明るいやつに限って落ち込みは激しいからね」
「そんなもんかね~……」
「そんなもんなの。ほれ、客」
カランカランと音を立てて常連が顔を出す。
「おっす~」
「よお!今日は早いな」
野木はいつもの顔にほっとしたのか、嬉しそうに歩いていった。
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