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81.不幸は突然に3
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廃品回収の集合場所は近所の集会所前だった。
集会所なんか行った事もないから、探すのには苦労した。
やっとの思いで行ってみると、そこにはすでに地域の人たちが集まっていた。
「あの」
地域のことはよく分からない。
誰が誰かわからないのだ。
だから。
側にいたおばあちゃんに声をかけてみる。
「廃品回収のお手伝いに来たんですけど」
「なんだって?」
おばあちゃんは耳が遠いらしい。
首を傾げて圭を見る。
「あの、だから。お手伝いに……」
声を少し大きくして説明をしていると、それに気が付いた男性が寄ってくる。
この人も高齢者だ。
「なんだい?あんた」
「あ、あの。回覧板を見て。廃品回収のお手伝いをしたいなって思って」
「どこの人だい?」
そうだろうな。
圭がどこに人かなんて分からないだろう。
「あそこの。角の白い家なんですけど……」
おじいちゃんは「ああ」と頷く。
「ヨネばあさんのところの後に入った人だね。おれは町会長の桜木だ。あんたは?」
「おれは関口です」
「そうかい。こんな日中から若い兄ちゃんに手伝ってもらえるとは思わなかったよ」
「あ、えっと。はあ……」
平日の昼間にこんなところに現れた圭をフリーターか、失業中と思っているのだろう。
気の毒そうにしている。
「あの。いえ。おれ、仕事はしていますから。ただ今日は時間があるだけで」
一生懸命に話すあたりが言い訳がましい。
「いいんだよ。無理しなくて」
桜木会長の隣にいたおばあちゃんは首を横に振る。
「いや。その。だから」
「どれ、それじゃあそろそろ始めるかね」
会長は圭の言葉を聞かずに、さっさとみんなに声をかける。
よく見てみると、集まっているのは年寄りばかりだ。
若い人と言えば、ちらほらと中年の主婦が混ざっているくらい。
重い廃品を回収する作業をするには大変そうだった。
「まずはこのルートで地域を回る。事前に連絡は済んでいるので、所定の場所に集まっているようだ。それをこのトラックに乗せて、ゴミ捨て場に搬送する。そこまでが我々の仕事になる。それでは、お昼までには終わるように頑張ろう!」
会長の言葉に一同は大きく頷いてから作業を開始する。
トラックの運転手は元ドカタのおっちゃんと言う感じだ。
ねじり鉢巻をして、ゆっくりそろそろと運転する。
その後ろをどやどやとメンバーが付いていくのだ。
圭もそれに従う。
なんだか面白そうだ。
隣にいたおばあちゃん。
さっき会長さんと一緒にいた人だ。
「あんた。若いのに大変だねえ。仕事がないのかい?不景気だから仕方がないね」
「あ、あの。仕事がないわけじゃないんですけど」
「いいんだよ。見栄張らなくて。あたしらはそういうことは気にしないから」
「いや。そうじゃなくて……」
「あたしは梅津。そこの茶色い家だよ」
「はあ。おれは関口です。あそこの白い家で」
「ヨネさんのところだね」
圭はヨネさんが分からない。
だけど、地域の人からしたら、あの家はヨネさんの家なのだろう。
「梅津さんは一人なんですか?」
「そうだよ。息子たちはみんな東京に行っちゃったし。夫はもう随分前にあの世に行っちまったからね」
「はあ……」
年寄りとの面識が極端に少ない圭にとったら、どんな態度を取ったらいいのか決めかねてしまう。
「最初の収集場所だ。みんな、頑張って乗せてくれ。割れ物もあるから怪我をしないように注意するんだよ」
会長の声に顔を上げると、山のような廃品があった。
「どれ。頑張ろうね」
梅津ばあちゃんは嬉しそうに圭を見上げた。
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