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108.会いたい2
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羽根田としては、圭やその関係者などがやってきそうな仕事に蒼を出していなかったので、蒼の知らないプロジェクトがいくつか存在するのだ。
それは奥川の差し金だった。
蒼には、気づかれないように上手くやっていて彼女だが、とうとうバレだというところだ。
『おれが行かないって。なに?どの話をしているの?セバスティアン?』
蒼の様子から、察したのか。
隣から手が伸びてきて、奥川が携帯を取り上げる。
「あ?」
『セバスティアン。その件は私に連絡を寄越すように話しているはずです。後でかけなおします』
彼女は、そう言うと携帯を切って閉じる。
「どういうこと?」
蒼は、彼女を見つめる。
「蒼さんの知らない仕事もあるということです」
「それってどういうことなの?」
奥川は、黙っている。
「ここの統括はおれなんだよね?統括が知らない仕事があるってどういうことなの?」
「統括は、お忙しいですから。こちらで割り振っている部分があることはご了承ください」
「了承できかねます!」
珍しく蒼が食って掛かるので、多少、奥川も動じていた。
「例え全ての打ち合わせに出られないとしても、ヨーロッパ部門の統括は、おれです。おれが仕事の内容をすべて把握しないなんてことはあり得ない。そうでしょう?」
圭関係の仕事を外しているなんでことまで、蒼が気付いているとは思えなかった。
ただ、純粋に責務を遂行したい一心。
そんな顔だった。
奥川は、自分の負けだと思う。
「承知しました。私の勝手な配慮が余計なお世話になってしまいまして、申し訳ありません」
彼女が自分の非を認めるなんて珍しいこと。
なんだか、蒼もドキっとして我に返る。
「あ、えっと。あの。そう言うつもりじゃなくて……」
「いいえ。これは私の不手際です。至らずに申し訳ありませんでした」
「あの。詳しいことまではいいから、こういう仕事もあるってこと。知らせてください」
「承知いたしました」
奥川は、頭を下げる。
彼女の携帯も鳴りだした。
忙しい身である。
「失礼します」
彼女は、廊下に姿を消した。
それを見送ってから、蒼は椅子に座りこむ。
いつの間にか。
この地位に馴染んでしまっている自分が怖い。
お客様のつもりでいたのに。
自分は、羽根田の文化部ヨーロッパ担当の責任者であるという自覚がついてしまったということか。
「いかん、いかん。慣れちゃだめだ……」
でも、一年になろうとしているのだ。
慣れて当然だ。
元々、仕事の覚えはいいタイプだ。。
大きくため息を吐いた。
「なに粋がってんだよ。自分」
なんだか反省。
そう思っていると、再び電話が鳴った。
『なあに?』
相手は、また彼だった。
『蒼、さっきは奥川がいたから切られちゃったけど。蒼に会う機会ってないの?おれ、側まで来ているよ?』
確かに。
最初に契約をしてから、一、二度会ったきりかもしれない。
へそを曲げられると仕事に支障が出るし。
蒼は、苦笑した。
『いいよ。今晩、21時には仕事が終わるから』
『待ってるね!』
彼は、そういうと、蒼の自宅の側のホテルに滞在していると告げた。
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