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112.圭の休日3
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オフの日は忙しい。
筋トレ、体力維持のジョギングの後は、練習に入る。
休みの日だって、楽器に触れないなんて言語道断だ。
今度、ミハエルと一緒に行う課題に取り組む。
シューベルトのピアノとヴァイオリンのための大幻想曲。
他にもいろいろとプログラムには入ってきているが、この曲はちょっと初めて。
清らかで、雰囲気のあるこの曲。
一度は挑戦してみたかった曲だ。
楽しみだ。
楽譜とにらめっこをしながら、楽器と相談を始める。
こうなると、時間が経つのはあっという間だった。
けだもがお腹がすいたと、圭の裾を引っ張る頃、あたりは夕暮れになっていた。
「やばい」
いくら近くても遅刻はいけない。
片づけをして、けだもの餌を準備して、圭はそそくさと出かける。
日本のように、フォーマルな格好で、なんてことはしない。
ただ、せっかくのルルのコンサートに普段着すぎるのもよくないと思った。
終わったら、彼と話せるだろうか?
なんだかわくわくしてきた。
少しシックな黒のセーターに茶色のコートを羽織る。
白と黒のマフラーを無造作に巻いて、黒い鞄を持って彼は出かけた。
ブーツはくたくたになってきているが、一番、履き心地がいいので、やめられない。
少し使われている感が出ているほうが、気取っていなくていいだろうと思った。
彼は、無駄に物を増やさない。
気に入ったもの、いいものを大事に使うほうだ。
男性はそういう傾向が強いかもしれない。
流行りなんて、あってないようなものだし。
女性はそうはいかないから大変そうだ。
チケットを握り締め、北風が舞う路地に出る。
本来ならば、暗くなっているはずの外だが、なんだか今日は妙に明るく感じられた。
ルルの演奏会も楽しみだが。
どうしたことだろう?
それ以上に、胸が躍る感覚を覚える。
こんなわくわく感。
久しぶりだ。
「やだな。おれ」
柄にもない。
なにを興奮しているのだろう?
まるで、最愛の恋人にでも会う前のような気持ちである。
もちろん、彼の演奏会は圭にとったら心躍るイベントでもあるが……。
そんなに嬉しいことだとは思わなかった。
自分に恥ずかしくなり、圭は、マフラーに顔をうずめ、ホールへと足を運んだ。
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