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72.指環と契約と8
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しかし、圭のほうから声を上げた。
「蒼、おれ。ずっと考えていたんだ」
「え?」
「蒼が家出してから。おれたち。これからどうしたらいいのかなって」
それは蒼も同じ。
圭も同じことを考えていたってことか?
「音楽は好きだよ。もちろん。おれのライフワークみたいなもんだからね。好きって言うか、おれの人生そのものだからさ」
分かっている。
そのことは十分に。
自分が音楽と天秤にかけられたら選ばれないなんてことは重々承知だ。
「だからさ。そこなんだよね。そこ」
「へ?」
意味が分からない。
箱を探していた手を止める。
「だからさ。音楽って言うのはおれの血や肉と同じ物な訳。おれを構成しているものの一つに音楽と言う素材があるんだよね」
「うん」
それなら意味がよく分かる。
「つまりだ。音楽と言うものは人にとったら一つのものかも知れないけど、おれにとったらそういうものなの。分かる?」
「だから、分かったって」
それは。
なにがいいたいの?
蒼は顔を上げた。
いつの間にか、ベッドの向こうの圭はこちらを見ていた。
「おれにとって、この世の中で一番大切なものは蒼だってことだよ」
「へ?」
圭は気恥ずかしいのか。
少し頬を赤くしている。
珍しいことだ。
「何度も言わせるなよ」
ぷっと吹き出した。
「笑うなよ」
「だって」
いつまでも笑っている蒼。
圭は膨れる。
いつもと反対だ。
いつもは圭が笑っていて、からかわれた蒼が膨れているから。
「ごめん」
「失礼しちゃうな……あ!あったッ!」
ふと伸ばした手にぶつかった硬いもの。
蒼も慌ててベッドの下を覗く。
そこにはけだもの秘密基地があった。
二人は知らなかったのだ。
なんだか小さいものが紛失することがあったけど、まさかけだもが犯人だとは思っても見なかった。
圭が掻き出すと、いろいろなものが現れた。
ベッドの上に乗り、反対側の圭のところに行く。
「あれ?これ、おれのストラップ」
「この前、買ってきて食べてないのになくなったパスタじゃん」
「こんな奥に隠していたのって」
蒼はそっとけだもを見る。
彼は首だけ立てて様子を伺っていたが、ぷいっと視線をそらす。
怒られると思ったのだろう。
「ぷ」
笑ってしまった。
「なんだよ~。けだもか。犯人は」
圭はほっとした。
ガラコンサートに出発する前に購入したこれ。
かばんに入れておいたはずなのにないから焦った。
この部屋に置いていったはずだったから。
蒼と逢えたら渡そうって思っていたから。
本当に焦った。
「で、それってなんだったの?そんなに大切なもの?」
ベッドの上にちょんっと座った蒼は圭を見下ろす。
「え?」
「それ」
圭の手に握られている箱を指差す。
「えっと」
おほんっと咳払いをしてから、圭は座りなおす。
「?」
「これ。蒼にって」
ぽんっと軽い音を立てて開いたそれ。
蒼の視界に入ったそれは金色の鈍い光を放っていた。
「指輪?」
「そ。これ。蒼に」
「圭?」
箱を蒼に向け、そして圭は微笑む。
「ずっと一緒にいてくれるよな。蒼」
蒼にはすぐには理解できない。
何度も瞬きをして彼を見る。
「えっと。これって」
「そういうこと。契約って言葉はちょっとどうかなって思うけど。おれたち、法律上は結婚できないし。だったら、契約。事実婚ってやつでどう?」
すごく嬉しかった。
涙もろい蒼にとったら号泣しちゃうくらい。
だけど、こういう嬉しいときに泣くのっていけない気がした。
ぐっと堪えて微笑む。
「仕方ないな~。おれがいないと圭は要領も悪いからさ」
蒼は絶対に泣くと思ったから、一瞬、行動が止まった圭だったけど。
目にいっぱい涙をためている彼を見ると我慢しているってことが分かる。
彼も笑ってしまった。
「そうだな~。おれ、音楽以外はてんでダメ人間だからな。蒼くらい出来た奥さんがいないと生きていけないからさ」
「そうだよ。てんでダメ人間じゃん」
そっと腕を伸ばして蒼を引き寄せる。
「一緒にいてくれるだろう?ずっとおれと」
「……うん」
蒼は圭にしがみついて泣いた。
これでいいのだと思った。
一緒にいる意味はまだまだ試行錯誤だけど。
こうして心が通っていれば、どんなことだって乗り切れる気がするのだ。
「よろしくな。蒼」
蒼は耳元で響く圭の声に瞳を閉じる。
「うん」
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