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魔界からの刺客
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暗闇の中から現れたのは、夜中の散歩中に助けたあの眼鏡を掛けたサラリーマン風の男だった。
男はにやついた顔で両手を鎖で繋がれた状態の勇をまじまじと見る。
「痛かったかな? でもこの程度で気絶してしまうなんて人間は本当に脆いんだね。」
「いったいどうして……。あんたは誰なんだ。」
「私の名はゼル・ストラウス。魔界のエナ共和国からレオ元王子を暗殺するためわざわざ人間界に来たんだよ。」
「魔界……! あんたも魔族なのか!?」
「そうだよ。エナがまだ王国だった時は軍医をしていてね。数えきれないほどの兵士の傷を私の魔力で治療してきたよ。」
元軍医のゼルは、見た目20代後半の好青年だ。高身長で顔も良く、掛けている細いフレームの眼鏡が大人の色気を漂わせている。
しかし、そんなゼルの目の奥から背筋が凍るような凶器を感じ取った勇は、全力でこの場から逃げたくてたまらない。
ゼルは片手に持っていたアタッシュケースを開けながら話を続けた。
「でも私はね、治療するよりも鋭利なもので傷つける方が向いてるみたいなんだ。ある時、捕虜の治療担当をしていたんだけとね、我慢できなくて誰も見ていない所に連れ出して切り刻んで殺してしまったんだよ。」
「もちろんすぐに私がやったことがバレて牢獄に入れられたよ。でも王国が滅んだ後、条件付きで釈放されたんだ。」
「その条件と言うのが新たにできたエナ共和国軍の暗殺部隊に入れというものでね。任務遂行に差し支えなければターゲットをどんな方法で殺しても構わないとのことなんだ。こんな素晴らしい条件はないと思いすぐに飛びついたよ。」
そう生き生きと話すゼルを見て、今まで経験したことのない恐怖が勇を襲った。身体中がガタガタと震えだし、汗も水のように流れ落ちていく。
ゼルはケースの中を見渡し、少し迷った後にメスのような小さい刃物を取り出した。
「とりあえず初めはこれでいいや。」
勇の顔の近くにメスを持っていくと、勇は恐怖のあまりに叫んだ。
「やめろ! やめろよ……! 何で俺がこんな……。」
「だいぶ取り乱しているようだね。でも君は王子を誘き寄せるために必要なんだから簡単に殺したりはしないよ。」
「王子はまだ少年だけど、有能な軍人たちから魔術や武術の手ほどきを受けていてね。私のような医術系を得意とする魔族では一騎討ちしたところで勝ち目はないんだよ。」
「だから君の命を引き換えにして、王子には死んでもらおうかと思ってね。ずっと君を拉致するタイミングを窺っていたけど、他の人間に見られては面倒なのでなかなか実行できなかったんだ。」
「でも昨晩君が1人外出してくれたおかげで、ようやく捕らえることができたというわけだ。本当に苦労したよ。」
「そう言えば、君と王子は愛し合っているようだね。気配を消して潜んでいたから直接見てはいないけど、よく淫らな声が聞こえてきたよ。特に昨晩は激しかったねぇ。」
勇はゼルの言葉に恐怖よりも怒りが沸いてきた。レオとの幸せな暮らしを脅かすだけでなく、真剣に愛し合う様子を盗み聞きして小馬鹿にするこの男が堪らなく憎くなった。
強く睨みつけて自分の怒りをゼルに伝えた次の瞬間、ゼルは躊躇無く勇の右頬を素早くメスで切りつけた。
流血と強烈な痛みにより、勇は怒りよりも恐怖が勝り、体が固まってしまった。
「そうそう! それだよ。素直に怖がればいいんだよ。そっちの方がいたぶる甲斐があるってもんだよ!」
ゼルは勇の前髪をグッと掴み、顔を近づけてそう言った。
ケースを再び開けたゼルは、中から大きなサバイバルナイフを取り出して、勇の着ている服を裂いて上半身裸にした。
「いやだっ……やめろ……。」
「ふふ、いいねいいね! もっと私をゾクゾクさせてくれ!」
少し興奮してきたゼルは、持っているサバイバルナイフのギザギザしたノコギリ状の部分で勇の胸をゆっくりと横に切りつける。
意識が飛びそうになるほどの痛みに勇は悲鳴を上げた。
「ふふふ、痛そうだねぇ。なんかこう、胸が熱くなってくるんだよね。そんな悲痛な叫びを聞くとさ。」
「それにしても君もバカだね。国を追われてただのガキんちょに成り果てた元王子に情けをかけるなんてさ。しかもお互い淫乱ときた。呆れ返ってものも言えないよ。」
再び自分とレオを馬鹿にする発言を聞いた勇は、怒りで一瞬痛みを忘れることができた。
この一瞬の間に勇は、絶対に泣き叫んだり命乞いをしないことを決意する。
勇にとってレオと一緒に暮らす今が幸せであり、自分のすべてなのだ。それを否定する人の命を弄ぶこんな変人なんかに屈して堪るかと、勇は自分自身を奮起させた。
「さて、王子が私の魔力を探知してここまでやって来る間は引き続き私のショーに付き合ってくれよ?」
ゼルは新たにケースから鞭を取り出し、勇に見せた。
「これは一般的に猫鞭と呼ばれているものでね。結び目が9本もあるんだ。これで打たれると皮膚が裂けて縄に仕込まれた金属片が食い込んでかなり痛いらしいよ。」
説明を終えると、ゼルはさっそく勇の背後に回り、勇の背中に猫鞭を打ち付けた。
勇は激痛により悶えるものの、僅かに残る冷静な心と勇気を持って、命乞いをするような情けない声は出さなかった。
「どうだ痛いだろ!? 泣け! 叫べ!」
ゼルは興奮しながら、勇の背中に猫鞭を打ち続けた。甲高い狂気じみた笑い声が建物の中に響き渡る。
勇の背中の皮膚は痛々しく剥がれ、血が床にぼとぼと音を立てて落ちる。それでも勇は歯を食いしばり、取り乱したりはせずに落ちつき払っていた。
勇の思った通り、ゼルは取り乱さない勇の態度に苛立ちを感じ始めている。
「なんだ君は……つまらない奴だな。ならもっとむごいことをして……。」
ゼルが鞭打ちを止めて別の拷問具をケースから出そうとしたその時、固く閉ざされた廃工場の扉が勢いよく開く音がした。
「レオ……?」
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