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01.無難な人生
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けじめをつけるって決めたから。
そう決めたから。
自分に言い聞かせるように、十文字は駅前を歩いていた。
今日は、仕事がひと段落した。
ずっと苦しんでいた仕事だ。
昔から、市長の子供という看板を背負って、自分を崩すことができない人生だった。
父親は、そんなお堅い人間ではなかったが、周囲がそうさせていた。
友だちもそう。
学校の先生もそう。
みんながそういう目で見ていた。
だから、羽目を外すなんてこと、到底できなかった。
父親の顔に泥を塗るようなこともできない。
友だちが好き勝手なことをしている時も、自分はやりたい気持ちを抑え込んで優等生ずらをしていたのだ。
なのに。
あの人と出会って、自分の心は大きく揺れた。
17歳の冬だった。
鈴木拓(ひらく)という男。
梅沢市から電車で1時間ほどかかる町に住んでいる子だった。
所属していた部活の活動を通して知り合った。
彼は、いつも友達に囲まれていた。
後輩たちに慕われていた。
部の中心的存在だった。
そんな彼だったのに。
明るく笑顔の彼が、時折見せる切ない表情に目を奪われた。
彼は、全て満たされているのではないと知った。
病気を抱えていたし、全てがそろっている家庭環境でもなかった。
そんな拓に惹かれたのに。
結局はいつもと同じ。
自分が傷つきたくなくて。
彼が別な人間を好いているのを知ってしまってからは、まったく興味もない素振りばかり。
ただの友人としての立ち位置を守ってきた。
そんな調子だから、高校を卒業して、少しは連絡を取り合っていたのに、ぷっつりと音信不通になってしまったのだ。
社会人になって、心の片隅にはいつも彼がいたのに。
忘れようとしていたのだろうか。
それとも、本気で忘れていたのだろうか。
先日、ばったり出会った瞬間。
高校生時代の淡い恋心が鮮明によみがえってきた。
なのに。
彼は、高校時代の恋人と再会しているという。
結末はわかり切っていることじゃない。
自分と彼との未来はないのだ。
それは真実。
だからこそ。
逃げたい気持ちがあるのも事実。
なのに。
どうしてだろうか?
生まれて初めて、自分の中でけじめをつけなくては。
そう思ったのだ。
「バカみたい」
大したことじゃないのに。
「好きだった」と伝えて、「ごめんなさい」という言葉をもらうだけだ。
自分は笑って、「そうだよね。ごめんね。困らせて」というだけなのに。
そんなことが怖くてできなかったのに。
市役所に入って、無難にこなしてきたはずなのに。
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