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小夜が何か計画していることは知っている。
休みたかった8日。
どうしても休めなくなってしまった。
その代わり、夜は小夜と初めて一緒に食事をした洋食屋に行く予定だ。
記念日に行く場所ではないかもしれない。
だが、俺と小夜にとっては、大切な思い出の場所だった。
あれから一年。
あっという間の一年だった。
ふたりで初めての秋を迎え、冬の冷たさに震えながら美しいハウステンボスを楽しんだ。
春には花見をし、そして季節は巡って夏を迎えた。
あの、アスファルトの焼けた匂い。
濃い緑のパスケース。
自信なく瞬きを繰り返す、小夜の瞳。
すぐに俯いて隠してしまっていた、綺麗な顔・・・。
『杉 小夜です。』
懐かしい、あの夏の日。
あの夏の日から、俺たちは始まった。
だからこそ、大切にしたい記念日だった。
今年のお盆は、13、14、15日。
火、水、木と、平日の真っ只中にある。
うちの会社は、基本的に盆休みという制度は無い。
その代わり、夏季休暇として7月から9月末までの間で、3日間好きなタイミングで自由に休みを取得することができた。
なので、19日からの長崎への帰省に充てる予定にしていた。
とはいえ、風見家にも顔を出しておきたい。
久しぶりに会った両親は少し老けこんで、皺が増えていたような気がした。
17日の土曜に振り当てようと小夜とふたり、話し合った。
・・・小夜、ペーパードライバー講習、するかな?
あの恐怖を思い出して、背筋がゾクゾクした。
どんなお化け屋敷よりも怖かった。
とはいえ。
「行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」
小夜と別れて歩き出した。
小夜が一生懸命練習してくれているのは、俺のためだ。
俺も、もっと頑張らないとな。
あの真っ直ぐな愛情は、深くてあたたかい。
そんな小夜を、幸せな笑顔でいっぱいにしてあげたかった。
小夜の夏休み期間中に、例えば、サファリパークに行けないだろうか。
可愛い動物の赤ちゃんたちに触れ合えるタイミングを逃したくなかった。
小夜の誕生日にプレゼントしたチケットは、まだ未使用のまま置いてある。
・・・小夜の運転で行くつもりはないけれど。
しかし、土日に行くことになれば、美湖ちゃんを置いては行けない。
美湖ちゃんも一緒に旅行に出ることは、可能なのだろうか。
今更ながら、悩んでしまう。
都内の日帰りや、実家への一泊旅行であれば、過去の経験から連れ出すのは可能だ。
だが・・・戸籍上は、他人でしかない。
気持ちでは、親のつもりになっているが、果たしてお母さんは許してくれるだろうか。
悩むところだ。
いずれにしても、
「おはようございます。」
「おはようございます!」
スーツの上着を脱いだ。
今日は成績を纏める日だ。
いずれにせよ俺は、日々の業務をこなして、目の前に迫った8日に残業で遅れるという失態を犯さないように頑張らねばならない。
ふたりのために頑張っているのに、ふたりの記念日に遅刻なんて本末転倒も良いところだ。
風見は肩を回すと、猛然と仕事に取り組んだ。
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