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朝から晴天だった空は、だんだんと雲がかかってきた。
とはいえ、気温は下がりそうもない。
今日の最高気温は34度と言っていた気がする。
でも、俺的には40度超えているんじゃないかってくらい熱かった。
「な、貴志って一生懸命だよね。」
「え?」
「そこが可愛いってこと。」
死ぬかと思った。
焼け焦げたアスファルトに沈みそうになって、トオルさんから支えられた。
「どした?」
なんでもない!!
言葉に出来なくて、首を振った。
だって、可愛いって。
男の格好してる俺に、可愛いって言ってくれたのだ。
初めて、人から認められた気がした。
どうしよう。
好きすぎて、死んじゃいそう。
胸がぱくぱくしてて、ちゃんと立てているのか分からない。
だけど、背中を支えてくれたトオルさんの手の感触だけは凄く良く分かって、泣いちゃいそうなくらい嬉しかった。
何か言わなきゃって思って、慌ててトオルさんに聞いた。
「つ、次はどこに行くの?」
覗き込むように顔を見つめられた。
眩しくて目を逸らしたいのに、逸らせなくて、涙目で見つめ返した。
・・・えっろ。
涙目で見つめ返すなんて、反則すぎだろ?
トオルは内心、肩を竦めた。
庇護欲というのだろうか。
捨てられた子犬から見つめられたみたいに、守ってやんなくちゃって気になってしまう。
貴志も大人で、ちゃんと社会人してるはずなのに、時折見せる嬉しげに振り回す尻尾や、耳を垂れ下げてクゥンクゥン鳴く子犬のような潤んだ目を見ていると、どこかに忘れてきた純情を思い出してしまう。
邪心の無い大人なんて、いないってのに。
あぁ、居たな。
でも、あれは子どもか。
「どっか、コーヒーでも飲もうか。」
返事を聞かずに、グイッと手を引っ張った。
正確には、二の腕を掴んで歩いた。
よたよたしながらついてくる貴志を横目に考えた。
そう、邪心の無い大人なんていないんだ。
性欲が満たされて、金があれば人間はそれで生きていける。
「・・・さん!トオルさん!」
「え?」
呼びかけられていた事に気付いた。
「コーヒー買って、公園行きましょう?」
指差した方向に、自販機があった。
いつの間にか道玄坂を通り過ぎて、住宅街の方へ足を向けていたようだった。
「鍋島松濤公園って知りませんか?」
「・・・なべしま?」
鍋島松濤公園(なべしましょうとうこうえん)は、この地域で鍋島家が松濤園という名前の茶園を営んでいた事に由来している。
茶園で作られたお茶は松濤と名付けられて、広く地元で愛飲されていたお茶の銘柄だった。
その後、茶園から農場へと時代と共に変化し、広い農地は高級住宅街へ変貌していったが、湧水池のある地帯は児童公園として整備され、令和の時代もゆったりとした雰囲気の公園として存在している。
「水車のある公園なので、ゆっくりできますよ。」
公園は、濃い緑に囲まれた美しい公園だった。
「あれ?」
「気付きました?」
気付いた。
桜の木。
夏だから、濃い緑の葉を広げて立っているけれど、これは桜だ。
「・・・春は、きっと綺麗だろうね。」
「はい、綺麗です。」
何となく、桜舞い散る中で笑う貴志が見えた。
「桜、好き?」
「うん・・・派手なお花って多いけど、桜って可憐で、見上げたら泣きそうになるくらい綺麗だと思う。」
そう言う貴志の方が、可憐で綺麗だと思った。
水車の見えるベンチに座ると、湧水に冷やされた風がふわりと頬を撫でた。
「貴志、おいで。」
隣を指すと、嬉しそうに座ってくる。
・・・もしかしたら、邪心の無い大人もいるのかも知れないと思った。
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