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『待ち人』
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あれから一時間は過ぎただろうか。
ひとしきり降る雨はやむ気配はない。
「………緋色…」
「なんだい?」
その声とともに頬に触れたのは
待ちわびた人物そのものだった。
「雨、どうして家の前でこんなにずぶ濡れになってるの」
「…っ」
ずっと触れたくて触れたくて
仕方なかったその人の胸に飛び込めば
優しく受け止めてくれた。
「なん、で緋色ずぶ濡れなわけ」
「傘がね、なかったから。まさか雨が降るとは…
降らせたのは、オレかな?」
俺の頬から涙か雨かわからぬ滴を緋色は拭ってくれた。
「嫌われたかと思って、俺怖くて、」
「うん、ごめん。ちょっとね雨が遠くに行ってしまいそうでオレも怖かったんだ。」
「どこにもいくわけない、俺にはここしかない」
「うん。そうだね、俺がお前を手放さないよ。」
またそっとだけど力強く抱き締める緋色の温もりに俺は安心していた。
「嫌な匂いを消すにはちょうどいい雨、かな」
俺の頭をなでながら
ぽつり呟かれたその“何か”は
雨音に消され、おれの耳には届かなかった。
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