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真面目で、素直で、優しくて、可愛い。
俺の想い人、月島 雅琴はそういう人間だった。
時々ドジで、大人らしくあろうと背筋を伸ばしていてもどうしても背伸びは出来ない、そんな不器用さがある男だ。
そんな彼に、俺はずっと想いを寄せている。
「ねぇ雅琴、好きだよ」
黒くつぶらな瞳を下から甘く見つめ上げながらそう言うと、雅琴は何度か瞬いた後に呆れたように首を振った。
「分かってるよ」
そう軽くあしらうように言いながら雅琴の視線は仏壇に飾られた写真の男へと向かう。
「ねぇ、いつまで引き摺ってんの」
「さぁねぇ…」
「いい加減、忘れなよ」
「…無理だよ」
一日に一度はするこの会話ももう何度目だろう。
雅琴の意識はいつだって写真の中だ。
もう数年が経っているというのに、俺が何度言っても聞いた試しがない。
「…ねぇ、いつになったら新しい恋するの」
「いつか、気が向いたら」
「それっていつ?」
「……」
雅琴は困ったように目を逸らして黙り込んだ。
またこれだ。
返答に困ると雅琴は決まって目を合わせようとしなくなる。
俺は重い溜息をつきながら、恨めしそうに写真の男を見つめた。
ーーΩである雅琴は高校生の時にαの恋人が出来た。
繁殖体であるΩ性が卑下され、上流階級種であるα性が尊ばれるこの世界では淘汰されたごく少数のΩの居場所は皆無に等しい。
雅琴もその少数に含まれる人間だった。
そんな中雅琴はあるαの男に恋情を抱く。
そして偶然か必然か、相手も同じように雅琴に惹かれていたのだ。
出会って間も無く、めでたく二人は恋人同士となった。
然し、その幸せも束の間。
その男は不慮の事故で帰らぬ人となってしまったのだ。
二人の交際が始まってまだ一年、彼も雅琴もまだ高校生だった。
それ以来、雅琴は恋人をつくっていない。
未だに、その男のことが忘れられないようだった。
「絢」
ぼんやりとしていた俺は不意に雅琴に呼び掛けられてパッと顔を上げる。
名前を呼ばれるだけで嬉しいなんて、相当重症だと思う。
「なーに、雅琴」
「俺ちょっと出掛けてくるから」
「どこ行くの?」
「母さんの実家。どうせまたお見合いの話でしょ」
「俺も行くよ」
「ダメ、絢はここに居て。…なるべく早く帰ってくるから」
ね、とダメ押しで笑い掛けられてしまえばもう素直に頷くしかない。
俺が分かったよ、と首肯すると雅琴は安心したような表情を浮かべて家を出て行った。
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