アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
11.
-
「じゃあな、セレン」
「またね」
「あぁ、また」
セレンは歳若い男と女に軽く手を振って屋敷への道を歩き始める。
外出を許されているセレンは屋敷の外に友人を作って本物の人間のように過ごしていた。
外に出て違う世界を見てきたいとミギナに相談したところ、主人は快く承諾した。
但し自分が人形だということは周囲に明かさないことと、恋人等の他者と深い関係は築かないこと、夜には必ず帰宅することを条件として提示した。
これも彼にとっては実験の一つなのだ。
幾ら本物のそっくりに作っても人間の世界に溶け込めなければ意味が無い。
その点、セレンは器用に立ち回り何の違和感もなく、他人との友好関係を築くことが出来ていた。
後は帰って来たセレンと食事を取りながらミギナはセレンのその日あった出来事を事細かく聞き出す。
それに対してセレンは包み隠さず全てをミギナに報告した。
それが日課になってきた頃、メイアの姿を屋敷内で見掛けることは無くなっていた。
「そうだセレン」
不意に食事の手を止めたミギナが目の前に座るセレンを見る。
「はい?」
「今週末空いているか?」
「今週末ですか?はい、空いていると思いますよ」
何か用事でも?と問い掛けるとミギナはあぁ、と頷いて薄く笑った。
宙でフォークを曖昧に揺らしながら薄らと髭の生えたその口を開く。
「実は私の兄の子供がな、人形師に興味があるから見せて欲しいという連絡があったんだ。今年で二十歳になる青年なんだが、折角だからお前の姿を見せてやろうと思ってな。アレでは見てもつまらないだろうから」
そのアレというのが一体誰のことを指しているのかセレンは直ぐに分かった。
「…それでは、実験室自体は見せないということですか?」
「無論、あれはまだ若者には刺激が強すぎるだろうからな。それにあそこにあるのはまだこの世に公開されていない研究結果ばかりだ。秘密裏に作られた毒や病原菌を含ませた薬品のアンプルも置いてある。幾ら親戚とはいえ万が一外部に漏れた場合、法で罰せられては研究を断念する他無くなる。世の中の人間全員が私と同じ意見を持っているとは言えないからな、…お前のように」
含みのある鋭い視線を向けられてセレンは居心地の悪さに思わず目を逸らした。
「まぁそんな顔をするな、別に非難している訳では無い。自我を持つとはそういうことだ。実に人間らしい」
「…そうですか」
セレンはそう呟いて飲み物に手を付けた。
アルコール度数の低いワインが入ったグラスを見つめてその赤色に、あの日見たメイアの傷痕を思い出してしまう。
「…あの」
「どうした?」
「…最近、メイアは…どうですか」
なんと聞いたらいいのか分からずかなり曖昧な質問になってしまったが、セレンの言わんとすることを悟ったミギナはワイングラスを指先で掴んで揺らしながらあぁ、と少しばかり頷いた。
「丁度昨日新しい病原菌を体内に注入したところだ、良い結果も出ている」
「…今はもう大丈夫なんですか、容態は」
「いや、まだ症状は重いな。薬はかなり強力なものを使ったんだ、最近はろくに食事も取らないせいで動けないのか研究室にこもりっぱなしだ。お陰で定期的に栄養剤を投与する手間が出来てしまったが、まぁこれくらいならさほど研究に支障をきたす訳でも無いから大目に見ているよ」
その言葉にセレンは顔を大きく顰めたが、彼に何を言おうが無駄なことはもう分かっている。
セレンは頭の中で苦しむメイアの姿をどうにか消し去ろうと目を固く瞑って頭を振った。
「…そうですか」
そう返したセレンの声は確かに、微かに震えていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
83 / 257